海外への兵器供与を管轄する米国防総省・国防安全保障協力局の発表によると、日本側はJASSM-ERを最大で50発求めている。日本側が負担する152億円のなかには、対ジャミング装置や訓練用ミサイル、付属部品や弾薬支援、ソフトウェアを含む機密の技術支援、輸送や整備のサポート、人材訓練などが含まれる。
米議会は今後30日以内に承認の是非を決定する。
運用方法としては航空自衛隊所属の「F-15J」を中心とした各種戦闘機を見込んでいる。同局は発表で、「高度な長距離攻撃システムによるスタンドオフ能力を得ることで、現在及び将来の脅威に対する日本の防衛力を向上させる」と強調。一方、文末には「地域の基本的な軍事バランスを変えるものではない」と取ってつけたように加えている。
とにかく数が必要
日米の政治家や官僚がいかに説明しようとも、中国や北朝鮮、ロシアへの対抗を見据えたものであることは明らかだ。JASSM-ERは空対地ミサイルで、主な用途は敵の防空網の範囲外から敵基地を攻撃することだ。
もちろん、中国や北朝鮮を刺激しないため、発表ではどの都市が射程に入るかには触れられていない。だが、このミサイルの射程は926キロ以上に達するといわれており、九州・沖縄方面で運用すれば上海などの中国沿岸部、平壌を含む北朝鮮のほぼ全域、日本海も含めればウラジオストクなどのロシア極東も射程に収まる。現状では考えにくいが、韓国の黄海沿岸から戦闘機で発射すれば、理論上は北京もぎりぎり射程に入る。
スタンドオフ能力の向上は、主に台湾有事における中国への対抗となっている。もっとも、今回購入する50発だけでは「話にならない」。中国には175の大規模空軍基地があり、1カ所を壊滅させるのに必要な弾数は、弾薬の量や命中率によって異なるが10~24発といわれている。全てを叩くとすると、少なく見積もって1750発、最大で4200発が必要となる計算だ。
実際に全ての中国軍基地を攻撃する必要はないかもしれないが、北朝鮮にも70の空軍基地があることも考慮すると、数千発単位のミサイルを保有しなければ抑止力にさえならない。中国、北朝鮮とまともに戦う気であれば、2万発あっても十分とは言い難い。
日本政府もそれは重々承知のはずで、今回のJASSM-ER以外の長距離攻撃ミサイルの開発、導入を進めている。最大射程1600キロの米製巡航ミサイル「トマホーク」を400発購入して、海上自衛隊が保有するイージス艦全8隻に装備させる計画が進んでいるほか、射程を1000キロに拡大させた国産の12式誘導弾能力向上型の開発、量産、島嶼防衛用の極超音速ミサイルの研究も進めている。
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