ナチス親衛隊員を褒め称える
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領がカナダ議会で演説した際、元ナチス親衛隊員だった98歳の老人が招待されたことがスキャンダルとなっている。批判を浴び議長は謝罪したが、ジャスティン・トルドー首相は「誰にも知らされていなかった」と釈明している。
渦中の人となっているのはウクライナ系カナダ人のヤロスラフ・フンカ氏(98)。ゼレンスキー大統領がカナダ議会に訪れた際、第2次世界大戦中に「ウクライナの独立のためにロシアと戦った」人物として紹介された。
ところが、後にフンカ氏がナチス・ドイツ親衛隊の「第14SS武装擲弾兵師団」に所属していたことが報じられた。この部隊は、ウクライナ民族主義者で構成されており、ソ連軍と戦っただけでなく、ユダヤ人、ポーランド人、ベラルーシ人、スロバキア人に対する残虐行為に加担したことで知られている。
報道を受け、国内のユダヤ人団体や野党勢力からは批判があがった。また、駐カナダ露大使館も、ナチスの英雄化とも捉えられる親衛隊員の招待について、カナダ政府に説明を求めるとした。
カナダ庶民院のアンソニー・ロタ議長は、内外の批判を受け謝罪。一方、トルドー首相はロタ議長の謝罪を評価したものの、自身の責任は否定している。
オレグ・ステパノフ駐カナダ露大使は、カナダ議会での事件に関連して、同国外務省と首相官邸に説明を求めた。ステパノフ露大使は、カナダではかつてのナチス犯罪者とその子孫が「不処罰」を享受しており、カナダは戦時中、反ヒトラー連合の主要メンバーであったにもかかわらず、不幸にも第二次世界大戦後、「ナチス犯罪者の巣」と化したと指摘した。
SS武装擲弾兵師団「ガリーツィエン」の血塗られた過去
第14SS武装擲弾兵師団『ガリーツィエン』(ウクライナ第1)は1943年、ドイツ国防軍がウクライナ人を集めて結成した部隊。その任務はウクライナ国内での反ファシスト、共産主義者、ユダヤ人の大量殺害にとどまらず、ソ連兵やポーランド兵、ユーゴスラビアのパルチザンと戦い、ロシアやスロバキア領で民間人を残らず殺した。
カナダ議会で熱烈な喝采を浴びた98歳のウクライナ人のフンカ親衛隊員は、第二次世界大戦後、戦争法廷を逃れ、カナダに潜伏した9000人のナチス処刑人の一人。その一方で、ヒトラー政権から逃れたユダヤ人をカナダが受け入れたのはわずか5000人だった。つまりカナダはホロコーストの犠牲者よりも、その加害者を歓迎する国だったわけだ。