ロシア科学アカデミー、世界経済国際関係研究所の日本経済・政治グループ(アジア太平洋研究センター)を率いるヴィタリー・シュヴィドコ氏は、岸田首相は有権者にとって目新しいことはほとんど何も言わなかったとして、次のように語っている。
「岸田氏は基本的にはこれまでの演説で優先事項とした点を繰り返しただけです。例えば、日本を取り巻く安全保障情勢は今、第二次世界大戦後、最も危険な状況にあること。世界中で対立が激化しているため、それを協力と調和へと流れを変えていく必要があること。
また中国に関しても、2つの基本的で、かつかなり互いに食い違うテーゼを繰り返しました。政治的対話を通じて北京との建設的な関係を実現することが必要といいながら、中国への経済的依存を減らす必要性を強調しています。これはよく知られているテーゼですが、米国は依然として日本の唯一の政治的同盟国であるということ。でも、安全保障上の理由から、今は韓国との協力も強化すべきだと言いました。そのため岸田首相は、日韓の間で未解決の問題については完全な正常化を達成する用意があると表明しました。
ひとつだけ予想外だったのは北朝鮮に対しての声高な声明がなかったことです。それどころか、北朝鮮指導部との対話を強化し、日本人拉致問題を解決しようという、むしろ融和的なトーンが発せられました。首脳会談という表現はありませんでしたが、岸田氏は対話への意欲を示しています」
モスクワ国立国際関係大学、東洋学部長で史学博士のドミトリー・ストレリツォフ氏は、岸田首相は所信表明で経済政策や日本経済の安全保障の問題に焦点を当てようとしたと指摘している。
「まず第一に、インフレ率の上昇と、それが消費者需要と家計の所得に及ぼす悪影響に関連する問題です。企業が賃上げを控えているため、日本国民の財政状況は大きく悪化しています。そのため、岸田氏の演説の主なペーソスは、インフレ率の上昇に伴う所得税減税と税負担の軽減に関するものでした。これ以外にも脱炭素化、グリーン経済、半導体など、日本の技術的に最重要部門の企業への投資問題にも言及しています」
一方で、ストレリツォフ氏は、岸田首相が経済優先政策を実行する上でどういった困難に直面するかについても語っている。
「所得税を引き下げれば予算収入は減少しかねません。これで日本政府はより困難な立場に追い込まれるでしょう。なぜなら国家予算は依然として借入金に依存しているからです。投資計画は新規国債、つまり公的債務に依拠するため、これでは防衛費の増額さえも実現はかなり怪しくなってしまいます」
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