流し網漁が禁止になるのではないかとの北海道当局の懸念については、例えば、5月14日に行われた交渉に先立ち、根室市の長谷川市長が、ロシアが流し網漁を禁止する事に日本政府としても反対の立場を取るよう、林農林水産相に支援を特別に求めたという事実が如実に物語っている。
しかし客観的に見れば、今回のロシア政府の決定は、決して日本を標的にしたものなどではない。交渉に参加したロシア代表は、今回の漁獲割り当て削減は、環境や資源への配慮に基づくものである事を強調している。今月10日、ロシア議会下院・国家会議は、来年1月1日からロシア領海内でのサケ・マスの流し網漁を完全に禁止する法案を可決した。この禁止措置は、ロシア漁船にも適用される。一方世界では、大分以前から流し網漁に対しては、極めて否定的な評価ができあがっている。環境学者達の主張では、海鳥や哺乳類に破滅的な害を及ぼすと言うのだ。すでに1991年、国連総会は、世界の大洋の公海上での大規模で広範囲にわたる流し網漁を凍結すべきだとする決議を採択している。
翌1992年、この決議に従って、ロシア、米国、カナダそして日本は、自国の200海里経済水域外での流し網漁の完全禁止を規定する国際条約を結んだ。その後これらの国々は、ロシアを除き、自分達の経済水域内での流し網漁を禁止した。そしてロシアのみが長い間、自国の経済海域内で流し網漁を行い、同様の漁を日本など他の国にも許可していた唯一の国だった。その結果、1500キロ以上にわたり、サケ・マスが産卵のためにサハリンやクリル、カムチャッカ、ロシア本土の岸に自由に近づけなくなってしまった。
ロシア議会上院・連邦会議、農業及び食料政策・自然利用委員会のゲンナジイ・ゴルブノフ委員長は、今回の状況を次のようにコメントしている―
「ロシア人の一部の人々の中には、伝統的に、ロシアは巨大な領土を持ち、ものが何でもたくさんあり、自然の恵みは無限なのだといった考えがあった。しかし、そうした考え方は、ありがたい事に変わって来ている。これは、共通の問題であり、若干の経済的問題は、自国ばかりでなくいくつもの国々にまたがった性格を持っている。流し網漁は、野蛮なもので、環境法や我々が導入しつつあるような基準や環境法は、世界的に見て最高のスタンダードに合致しなくてはならない。それゆえ、サケ・マスの保護は、我々にとって優先的な政策なのだ。」
長年こうした問題について研究してきた太平洋地理学研究所の学者達の調査によれば、ロシアの排他的経済水域内(EEZ)で流し網漁により、毎年、十数万羽の海鳥、1800頭を越える海の哺乳類、つまりイルカやシャチ、アザラシ、トド、オットセイさらには小型のクジラなどが死んでいる、という事だ。