円建て債券が、ギリシャ政府によって発行されたのは1995年の事だった。その総額は、380億円(2億7700万ユーロ)だった。こうした証券は、発行者が日本の投資資本にアクセスするのを保障する。ギリシャの財政状況が「緩み」始めた時、証券を保有している人の中には、日本の個人投資家も少なくなかった。多くの人達は、自分が持っていたギリシャの「サムライ債」を国際ヘッジファンドに安値で売った。
「サムライ債」の市場は、円建て債券を積極的に売っていた投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した後、急激に縮小した。しかし現在、この市場は目立って活気づき、日本の投資家達の外国系企業の債務に対する関心が高まった。それらから得られる収入が、日本企業の同様の債券よりも多いからだ。プロの投資家に続き、金融業界のスラングで「ミセス・ワタナベ」と呼ばれる多くの個人投資家達も、自分達の関心を日本企業の証券から「サムライ債」へと移し始めた。なお「ミセス・ワタナベ」というのは、一家の財布を握っている日本の主婦のイメージである。
証券市場で個人投資家達が少しばかりお金を儲けたいと望むのはよく理解できる。しかし日本や米国、英国、イタリアといった発展した国々が、何のためにお金を借りるのだろうか。そうした国々では、対外債務が、GDPの総額を越えている。
「経済の借り換えのために、借金しているのです。現代の金融システムは、米国そしてその他のG8の国々(今はロシアが抜けてG7となっていますが)が、基本的な負債と利子をカバーするために借金し得るように作られています。現在世界の金利が非常に低い事を考慮すれば、そうする事は容易です。実際米国あるいは日本は、問題なく、自分達の債務を、新規の融資よって償却しています。しかしギリシャやウクライナなどの国々は、それができません。そうした国々の国債に対する信頼が、かなり低いからです。ビジネス界では、もしビジネスの収益性が、クレジットの金利より高ければ、クレジットを得た方がもうかると考えます。しかしビジネスは、リスクを伴うものです。もし何かがその通りに行かなくても、借金は払わなくてはならなくなります。おまけにIMFや他の国際金融組織と違い、民間債権者にとっては同じことで、やはりそれに、お金が費やされるでしょう。彼らにとって肝心なのは、収益であり債務の返済です。そうした事がいいのか悪いのか、一概には言えません。債務は、時に増えたり、あるいは快適に暮らせたりするチャンスをくれますが、すべては状況次第です。」
今回の状況は、次のようなものだ。ギリシャにとってサムライ債の額は、それほど本質的なものではなく、一方支払いを拒否すれば、他の市場参加者に国がデフォルトのメカニズムに入ったと受け止められるので、もし支払わなければ、ギリシャ政府の状態は、はるかに惨めなものになっていたろう。今我々が待っているのは7月20日だ。この日ギリシャは、欧州中央銀行に35億ユーロを返済する事になる。これは「ミセス・ワタナベ」に返したものより、ずっと深刻な額である。