ロシアはシリアのアサド大統領の要請をうけ、9月30日よりシリアの「イスラム国(IS)」拠点にピンポイント空爆を開始した。この間ロシア航空宇宙軍は450回あまりの攻撃を行い、戦士数百人を殺害、訓練キャンプ、司令部、弾薬庫その他の施設を破壊した。またカスピ海艦隊の戦艦が誘導ミサイル26発を発射し、IS拠点に命中させた。
雑誌「グローバル・ポリティクスのなかのロシア」編集長で政治学者のフョードル・ルキヤノフ氏によれば、これは驚くほどのことではない。テロとの戦いという大目的は共通しているが、シリアでロシアと米国が追求している国益はそれぞれ異なるのだ。それが両国の協力を阻害している。
ルキヤノフ氏によれば、ロシアは国際法の枠内でのみ行動することが必要であり、合法的に選ばれたシリアの政治指導部を支持することが不可欠だ、と主張している。一方の米国はアサド大統領のことを「血に飢えた独裁者」と規定し、政権を交代させることに努めている。シリアの体制の今後を別様にイメージしていることこそが、露米のシリア問題観の食い違いのもとになっている、とルキヤノフ氏。
一方、軍事専門家のウラジーミル・エフセーエフ氏は、「これほど利害関係が食い違っているとなると、露米が協力関係を打ち立てることは不可能に近い」とした上で、ただし、政治的な食い違いは棚上げにして、両国軍部が行動を調整することは出来る、と語る。そうすれば、少なくとも偶発的な撃ち合い、武装衝突は回避されるだろう。
テロリズムという共通の敵に立ち向かうために、ついに露米が力を合わせる日が来るのだろうか。アナリストのドミートリイ・アブザロフ氏によれば、協力は必要であり、協力しないという選択肢はない。しかしどのような形で調整がなされるのかという点は疑問である。「政治部門はパブリックな側面なしで協力するだろう。パブリックな側面なしの調整は可能であり、それは現時点ですでに行なわれているかもしれない」とアブザロフ氏。
エフセーエフ氏は語る。「中東の対テロ協力は、ついには成立するだろう。しかし、ホワイトハウスの大統領執務室にオバマ氏の後任が座ったときにのみ、それは可能だ」。