これに中国は予想通りの反応を示す。駐中米国大使が呼び出され、抗議を受けた。続いて中国外務省が声明を出した。それにいわく、中国は人工島について争う余地のない主権を有しており、米軍艦の行動は中国の主権を侵害しており、かつ、地域の平和と安全を脅かすものである。中国紙グローバル・タイムズは米国の振舞を「侮辱的」と規定し、中国政府に対し「米国と戦うことを恐れるな」と呼びかけた。
菅官房長官は次のように述べた。「人工島の大規模建設は一方的行動であり、緊張を高めている。国際社会全体がこれに憂慮を抱いている」。あわせて長官は、米艦の巡洋について、日本と米国は緊密な連絡を取り合っている、とも述べた。またフィリピンのアキノ大統領は次のように述べた。「誰であれ、この海域におけるいかなる航行を制限することも出来ない」。ベトナムは今のところ公式なコメントは出していない。しかし、ベトナムの元外交官で、戦略研究・国際発展センター所長、ヌグエン・ヌゴク・チョング氏は次のように述べている。「ハノイの沈黙は肯定を意味する。しかし中国と数千kmにわたって国境を接するベトナムとしては、強大な隣国の逆鱗に触れないように、慎重であらざるを得ない」。
次にロシア人専門家のコメントを聞いてみよう。
「自らの国益を最初に追求し出したのは米国だと思う。米国は地域諸国に対する影響力を確保することを国益としている。この国益を追求するに際して、彼らは複合的な方法をとっている。第一に来るのは、彼らの言い方では、外交である。そして外交を支持するもの、これが軍事力である。アジア太平洋地域においては、その役割を演じるのは米海軍である」
モスクワ国立国際関係大学軍事政治研究センターのミハイル・アレクサンドロフ氏は独自の見解を示している。
「むろん駆逐艦1隻で中国を驚かせることなど無理な話ではあるが、この件については米国は繊細な行動をとっている。ロシアとの対立を背景に、米国はアメとムチを使い分け、中国により緊密な協力を迫っている。米国が何より恐れているのは中国とロシアの軍事協力である。ゆえに、地政学的観点から、米国は中国を自陣営に取り込むべく努めているのである」
専門家の多くが、米国も中国もともに情勢悪化を望んではいない、という点で一致している。米国はあえて中露の軍事的・政治的同盟のための条件を創り出すようなことを望まない。また中国は多くの理由から、米国との直接対決を望んではいない。いずれにせよ人工島を奪うことは誰にも出来ない。おそらく今回の米艦巡視の一件は、中米の相互的、かつ抑制的圧力に終わり、深刻な軍事紛争が起きるまでには至らないだろう。