「核兵器要件試案1959年版」と題された、800ページにも上るリスト。1956年に米空軍戦略本部が作成したものだ。大都市にある撃滅標的が指示されている。うち179がモスクワ、145がレニングラード、91が東ベルリン。各標的に具体的な地理的ポイントに基づくコードナンバーが付されている。正確な名称や標的の住所はまだ秘密のままだ。
優先的な標的となっているのは空軍施設。ソビエト爆撃機が欧州へ、さらにその先へと発進することを阻むためだろう。第二の標的は産業インフラと行政機関の建物だ。これら拠点のすぐそばには民家がある。大量爆撃の際には膨大な人的犠牲が民間人の間に出たであろうことは間違いない。複数の軍事史家によれば、市民への攻撃は、軍事行動の不可避の結果として、敵の戦意を殺ぐ手段として、しばしば検討されてきた。「それは敵の士気を落とし、反乱や降伏を促進し、理論的には戦争を終わりに近づける手段だ。市民への大量爆撃を人道的見地から正当化する試みが、こうしてとられた。東京・ドレスデン大空襲や、広島・長崎への原爆投下さえ、肯定する試みが」とThe New York Timesの当該記事にある。
今回公開された文書は冷戦時代のものであるが、市民を無力化することは、今もって敵抑止のための主要な原則であり続けている。記事の執筆者、スコット・シェイン氏はそう語る。天然資源保護評議会原子力プログラムのマシュー・マッキンジー代表によれば、「敵方の都市を破滅させるという脅迫は、今もって抑止の核心である」。
翻って今日はどうか。米国はシリアのラッカにあるダーイシュ(IS)の参謀本部への爆撃を控えている。そこに多くの民間人がいるからだ。しかし、一部の大統領候補者、たとえばテキサス州選出のテッド・クルーズ上院議員は、オバマ政権を批判し、シリアとイラクのダーイシュを絨毯爆撃するよう呼びかけている。
核政策問題担当独立コンサルタントで『アトミック・オーディット』という本の編集者・共著者であるスティーヴン・シュワルツ氏は、今回のリストを「暗鬱で、明らかに恐ろしい」ものであるとしている。しかし氏は、同時に、政治家も含めて、核兵器の何たるかを現実的に理解しない米国人がどんどん増えているときにこの文書が公開されたことに、喜びを示している。