だがこれを議題にあげなくてもサミットで話し合うテーマはかなり広範にわたっている。国際貿易もしかり、グローバル経済にとっての潜在的リスク評価、「ダーイシュ(IS)」との闘い、中国に関する共通の危惧もそうだ。日本は中でも中国が南シナ海の人工島に軍事インフラを建てるのではないかと非常に憂慮している。中国問題、次期米大統領になる可能性の高いトランプ氏、日露関係といった問題は議題には挙げられていないものの、おそらく討論ではテーマに挙げられるものと見られている。
トランプ氏が米大統領に選出されそうであることはオバマ氏をも含め、G7の首脳らに明らかに緊張を強いている。なぜならこれはもうひとつ予測不可能な力が出現することを意味するからだ。日本については、トランプ氏は米国市場に日本車を溢れさせ、米国のビジネスの一番美味しいところを貪欲に漁っているとして再三にわたって批判してきた。「日米貿易の不均衡はもう信じられないほどだ。日本は何でもかんでも売りつけてくるのに、米国のほうはほとんど何も売っていないじゃないか。」とトランプ氏はあるインタビューで語っている。
トランプ氏はつい先日、日本と韓国に対し、自前の核兵器で防衛せよ、米国の核の盾を当てにするなと呼びかけている。そのトランプ氏が北朝鮮のリーダー、金正恩氏と直接交渉を行うこともやぶさかではないとした声明は、日本の主たる最優先事項に対するあからさまな違反であり、安倍氏側からの厳しい反発を呼んだ。安倍首相は、「次の米大統領が誰になるにせよ、日米同盟は日本外交の基軸だ」と力説した。しかしトランプ氏にホワイトハウスに引越しするチャンスがどれほどあるのか、それをオバマ氏の口から聞きたいと思っているのは日本に限らず、他の西側諸国も同じだろう。
サミットのホストである安倍首相に対してはおそらくロシア大統領との特殊な関係について質問が飛ぶだろうと予想される。ソチでの安倍・プーチン会談の結果には双方ともがかなり楽観的な評価を与えているからだ。だが実際に何について具体的に合意したかは未だに不明なままで、その秘密を安倍氏がサミット参加者らに明かしてくれるつもりなのかどうかはいわく言いがたい。
中国はこのサミットに国際政治の、またそれに留まらない最重要ファクターとして姿を見せずに同席することになる、と語るのはロシア外交国防政策評議会議長団の代表で雑誌「グローバル政治の中のロシア」の編集長をつとめるフョードル・ルキヤノフ氏だ。ルキヤノフ氏は、中国というファクターは露日関係の背後に立っているとの見方を示している。
「両国はこの地域における最大の力としての中国の伸張となんとかバランスをとろうとしており、これが二国関係を雪解けへと導いている。同時に中国というファクターは日米関係にも強力に存在している。これは北朝鮮の核ミサイルの脅威に対抗しうる共通の盾を作ろうとすることと同じだ。
米国がロシアとイスラム急進主義者らの危険性についてどんなに口にしようが、中国はかつての米国の主たる地政学的敵であり、今もそうであり続けており、米国はどんなにしても中国の上に立つことができない。このため異なる国益を抱える米国もロシアも地政学的関心を解決するには日本を抜きにしてはこれはできない。」