「どんな進展もまずありえない。仲介裁判所は自らの意見を述べたにすぎず、この裁判所自身には判決を実現させるツールは何もない。だから、中国に主張を取り下げ、判決の通りに何かをするよう強いることは誰にもできない。だが中国は非常に不愉快な状況に陥るだろう。なぜならばこれからは事あるごとにハーグの裁判所の今回の先例と判決が中国に示されるようになるからだ。また、中国は何らかの国際機関と対立する状況を非常に嫌う。なぜなら中国自身が国際法と政治における集団的なアプローチをアピールするよう心掛けているからだ。」
中国が今まで国際法にアピールしてきたため、オバマ政権はハーグの裁判所の判決を、中国が国際法を尊重しているかどうかを示すテストとして見ていると考えている専門家もいる。毎年南シナ海を通って、5兆ドルもの積み荷が輸送されている。さらに係争海域には膨大な石油と天然ガスが埋蔵されている。そして、中国とフィリピンのほかにもさらに数カ国が南シナ海の様々な海域の領有権を主張していることも重要性の高い事実だ。 中国はハーグの裁判所の判決をボイコットすれば、自らの評価を落としてこの地域で孤立する可能性がある。同時に他の係争諸国もハーグの裁判所の判決を盾にとって、フィリピンのように裁判所に同様の申し立てをする可能性もあると専門家らは指摘している。ルキヤノフ氏はさらに次のように続けている。
もし中国が評決の枠内の要求を履行することを頑なに拒否するとする。そういう事態は予想できることだが、専門家らの中からは、もしそうなればこれは転換点になる可能性があるという意見が挙げられている。そうなった場合、米国は次のような2つの「命運を分ける選択肢」にぶつかる可能性がある。譲歩することで地域で伸張する中国の支配権と、これに準じて低下した自国の影響力を認めるという選択肢が1つ目。もう1つは状況がうまく進展しなかった場合、大規模な紛争に発展しかねない軍事衝突に突入するかだ。なぜならハーグ裁判所の判決が後押しとなって中国は、南シナ海上空を防空識別圏と設定する可能性があるからだ。
2015年と16年に、米中はそれでなくとも、係争海域で認可を得ていない米中の船や飛行機が現れたことに対し、幾度も互いに対する遺憾の意を表してきている。ルキヤノフ氏は、このように東アジアは非常に白熱した地域になりつつあると指摘している。