何よりもまず不透明なのは欧州におけるNATOの今後。トランプ氏は「我々が守ってあげている諸国はこれに関する出費をまかなわねばならない」と警句を発している。これを相手が行なわなかった場合、米国はそれらの国を防衛するのを止める。米国は大統領選挙が行なわれる前の段階でも欧州における米軍の支援があまりに巨額につくことを不服としていたが、こうしたクレームがこれだけ大声で叫ばれたことは今までなかった。これに関してユンカー委員長は、米国は「欧州の安全保障を永遠に行なうわけではない。我々は防衛に対する新たなアプローチを行い、最終的には欧州の軍隊を創設せねばならない」と提案した。しかし欧州軍創設の構想はその欧州自体に熱意を持っては受け入れられなかったことはあきらかだ。諸国は金を支払うはめになるというのでかなり不満。その金のやりくりには将来欧州委員会がやることになる。自国の若者らの外国への派兵が不可避となるのこともより不満度を高めているのは言わずもがなだ。
TIPPにも米国側から拒否権が突きつけられかねない。なぜならトランプ氏はこうした貿易協定に懐疑的なまなざしを向けているからだ。
もうひとつ、無視できない重要な側面がある。それは米国の金融政策が欧州に少なからぬ影響を与えているということだ。トランプ氏はこのツールは遠慮せずに用いると宣言している。これはつまり連邦準備制度の利率引上げを示す。これはユーロ圏には大きな意味をもつ。それは欧州中央銀行が利率に対しては限られた影響力しかもたず、その利率は世界の市場の状況の影響をもろにうけ、連邦準備制度の行動に左右されるからだ。このためアナリストらは利率引上げ傾向が維持されれば、ユーロ圏には深刻な問題が引き起こされ、欧州諸国間でこの先軋轢が起き、ポピュリズム的政党の人気が上がってしまう恐れを指摘している。
独金融アナリスト、エルンスト・ヴォルフ氏
「『米国を再び偉大な国にする』という彼の信条はつまり、まずは国際市場でライバルらに問題を作りだすということを意味する。ウォールストリート最大の問題はあい変わらず石油の低価格につきる。これを引上げる唯一の方法は中東での戦争を拡大することだ。さらにもうひとつの緊張の火種になるのは中国。トランプ氏はすでに中国商品に対する高率の関税導入を宣言している。これはかなり複雑なことになるはずだ。なぜなら中国120カ国のパートナーを抱える強大な貿易国だが、対する米国の貿易相手国はわずか70カ国なのだから。」
ヴォルフ氏の意見ではTIPPは結局は「今ある形ないしで実現するか、あるいはトランプ氏が米国のためにさらに多くの特恵を手に入れようとするだろう」との見解を示している。EU諸国にとっては、特に独にとってはこれは不快なことになる。
スペイン人政治学者、アルマンド・フェルナンデス・ステインコ博士の見解。
「トランプ氏は米国がこの先、今の規模で軍事費を払うことはできないことは認めている。結局は私はこれはトランプ氏の空想の中にも現実主義があるという証拠だと思う。これはどこに行き着くだろうか? NATO内で緊張がかなり増し、国際関係ではプラグマチズムが増すだろう。トランプ氏の抱える危険は彼が有権者に対してあまりに多くの公約を与えてしまったことににある。有権者はいまやトランプ氏に多大な期待をよせているが、公約の大部分は遂行はできない。」
「近い将来に急な変化が起こることはない。なぜなら一連の司令塔はまだ古いエリートたちで占められているからだ。だがトランプ氏の就任で国際経済に起きる変化は巨大なものとなりうる。なぜなら経済的な視点からすればトランプ氏の勝利は国内問題があるゆえに国の外で解決を模索するという政策の失敗を意味しているからだ。おそらくトランプ氏は、少なくとも当初は国内問題により大きな注意を向けるものと思われる。なぜなら投票者側からの信頼に大きな借りがあるからだ。だが独自の保護貿易政策を実現するためには金が要る。このためトランプ氏は連邦準備制度も、議会も相手にして闘うはめになるが、そのどちらにも彼の味方はいない。だがトランプ氏には危機という同盟者がいる。いずれにしても米国と欧州は最大の貿易経済パートナーであり、互いを必要としている。このため意見の矛盾、食い違い、摩擦、困難がどんなにあろうとどちらかが片方を置いて出て行くという事態にはならない。」