シングルマザーが生きやすいのは日本かロシアか?厳しい世間体VS自由の弊害

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国によって家族の形は様々だが、日本とロシアのそれは驚くほど大きな違いがある。今回は日本とロシアのシングルマザーの置かれている状況を比較してみよう。

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2015年に厚生労働省が発表したデータによれば、2011年度の母子世帯は約123.8万世帯だった。シングルマザーのうち8割以上の人が就業しているが、経済的には厳しく、母子世帯の平均年収は181万円である。そして、元夫から養育費を受け取っている世帯は、わずか19.7パーセントしかない。それは、日本では協議離婚が多く、養育費に関する取り決めが完全に当事者まかせになっていることと関係がある。日本シングルマザー支援協会・代表理事の江成道子さんに話を聞いた。

江成さん「本来、養育費を受け取ることは子どもの権利ですが、親同士はどうしても感情論になってしまいます。離婚原因が夫のモラハラやDVだった場合、怖くて元夫との関わりを絶とうとし、追い込まれてしまって経済的に困窮するケースもあります。養育費を請求したくても、弁護士に依頼したり裁判を起こしたりすることのハードルが高く、時間と労力を他のことに使わざるを得ない人もいます。また、この問題を追及していくと、男性の低所得化・貧困が思った以上に深刻だということがわかりました。もともとの家庭の所得と離婚率は連動しているというデータもあり、中には、元妻に対する嫌がらせのために仕事を辞めてしまう男性もいるほどです」

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そして経済的な問題以外に、日本のシングルマザーが直面するのは、世間体の呪縛である。「常識的であること=幸せ」だという考えも、男性が外で働き女性が家を守るという考えも、実態としては崩壊している。しかしそれでもその考えにのっとって生きていこうとし、自分で自分を苦しめてしまうのだ。江成さんは、「日本人の不幸は思考にある」と指摘する。

江成さん「周りと同じでないと不幸、という思考に囚われて悩んでしまう人がたくさんいます。大学に行かせられない、塾や習い事に通わせてあげられない、ゲームを買ってあげられない…という考えですね。でも、周りと比べて悩む必要はありません。本当の意味で自分の主観を大切にし、自分は自分、人は人として捉えればよいのですから」

江成さんは「シングルマザーが元気に自立し、前を向いて楽しく生きられるように」という気持ちで、就職支援や共感しあえるコミュニティ作りなど、シングルマザーを支援する様々な活動に取り組んでいる。裏を返せばそれだけ、シングルマザーになったことで自分を責めてしまったり、自信を失くしてしまう人が多いということだ。

さて、日露のシングルマザーの人数を比較することは難しい。なぜなら日本とロシアでは、シングルマザーの定義が異なるからだ。ロシアには「法的シングルマザー」と「実質的シングルマザー」の2種類がある。ロシアでは、両親が離婚しても親権は父母双方に残る。離婚後、子どもを引き取って育てている母親は、実質的にはシングルマザーだが、法的シングルマザーではない。法的なシングルマザーにあたるのは、子どもが誕生した時点で既に父親がいない場合や、独身女性が養子をとった場合など、限られたケースだ。

ロシアで18歳未満の子どもがいる世帯のうち30パーセント近くが、法的なシングルマザー世帯である。実質的シングルマザーの数の公式的な数字はどこにもない。しかし、離婚率が52パーセントから80パーセント(地域によって異なる)であることを考慮すると、その数が日本と比較にならないほど多いことは想像がつく。シングルマザーが多数派になった社会では、シングルマザーであるか否かということを全く誰も気にしなくなっている。1950年~60年代のソ連では、シングルマザーであるのは世間的に恥ずかしいことで、人々はシングルマザーに戸惑ったり気遣ったりしていたし、シングルマザーだというだけで面と向かって非難されることすらあった。ロシア社会の家族観は、この50年間で激変したと言えよう。

実質的シングルマザーの養育費の問題はロシアの方がクリアだ。子どものいる夫婦が離婚する場合、必ず裁判をしなくてはならない。もし子どもが10歳以上であれば、父母のどちらの側に残りたいか、裁判所が子どもの意思を確認する。もっと小さい子どもであれば、多くの場合、母親と暮らすことになる。ロシア家族法81条は養育費について、子どもが1人なら収入の25パーセント、2人なら33,33パーセント、3人以上なら最大50パーセントを支払わせることを定めており、もし子どもが母親と暮らすならば、養育費は父親の給料から天引きされる。

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ロシア女性のメンタルが日本女性と異なるのは、負の感情が自分の内側でなく、外側に向けられることかもしれない。ロシアの著名な心理学者、キリル・クルイジャノフスキーさんは、「離婚にあたって実質シングルマザーとなる女性は辛酸をなめ、世間とは不公平で厳しいものだと感じます。その女性が力と理性を兼ね備え、自分自身の問題を子どもに転嫁することがなければよいのですが。中には子どもを自分の目的のために利用し、その子が元夫に反発するように仕向ける人もいます」と話す。

法的シングルマザーにはもちろん養育費はないので、自力で稼がなければならない。そこで国は、14歳に達しない子をもつ法的シングルマザーを職場で解雇することを禁じている。場合によっては時短勤務や、出張・夜間勤務の拒否などができる。幼稚園(日本で言うところの保育園)に優先的に入園できたり、学校で給食や教科書が無料になったりもする。しかし現在、国として彼女らに金銭的な援助はしていない。それぞれの自治体が独自に、法的シングルマザーに対しての補助額を決め、支給している。

日本人の読者の皆さんには、金銭的な支援がほとんど無いのに、法的シングルマザーがロシアの子育て世帯の3割にのぼるということは驚きかもしれない。しかし夫を持たずに自分のために子どもを産むのは、もはや流行とも言える現象になっているのである。出産時の年齢は概ね若く、20代から30歳前後だ。彼女らが何を考えているのか、クルイジャノフスキーさんに代弁してもらった。

「多くの女性が、男性と一緒に暮らしたくないと思っています。そういった女性は我が子と暮らすだけでなく、自分の母親とも同居します。多くの場合これは無意識下の選択と言えます。つまり夫なしで子どもを産むという行為は、その女性が育ってきた男性不在の家庭環境を再現しているにすぎないわけです。彼女らはその環境に身を置き、それをじゅうぶん快適だと感じているのです。夫のいる女性が、夫のいない女性より快適に暮らしていると証明することはできません。家族の中に父親がいるからといって、それが子どもが育つための理想条件であるとは言えず、父親の不在が家族や子どもにとってマイナスだとは必ずしも言えません。とは言えもちろん、夫婦が調和関係にあれば、その女性は運がよいと思います」

父親なしで子どもを持つことを無意識に選択した女性たちは様々なタイプに分かれる。子どもの存在が邪魔になり、子どもを自分の母親のもとに残して自分は新しい男性を探すという人もいれば、子どもの存在を唯一の生きる意味とみなし、無償の愛を注ぎ、子どもを崇拝さえしている人もいる。父親自体が不要だという考え方はかなりラディカルだが、ロシアの離婚原因の4割がアルコール中毒または麻薬であることを考えると、結婚に夢が持てないのも仕方ないのかもしれない。また夫婦同然に暮らしている同棲カップル(ロシアでは市民婚と呼ばれている)も非常に多いが、統計上の数字にはあらわれてこない。

日本人の不幸が周囲の目を気にする思考回路にあるとするなら、ロシア人の不幸はその逆だ。半世紀の間にあまりにも家族に対する価値観が変わりすぎ、周囲を一切気にすることなく振舞えるようになった結果、「自由こそ全て」という感情が先走っている。

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