スプートニク:ロシア経済は最悪の状況を脱し、緩やかに回復に向かっています。今、日本企業にとって、どんな投資分野が最も有望でしょうか。
齋藤氏:エネルギーや自動車分野に代わる新たな投資先(進出先)として、医療や農業、都市開発への関心が高まっています。それらに共通するのが、「ロシアが求めているところに投資する」、つまり「ロシアが困っていることがあれば、それを一緒に解決していきましょう」という視点です。医療しかり、農業しかり、そうした視点が根っこにあります。
例えば、アークレイがモスクワ郊外にある工場を拡張し、新たに尿検査試薬の生産を開始しました。極東では北海道総合商事がサハ共和国のヤクーツクに温室栽培施設を建設し、野菜生産を開始しました。北海道の伸和ホールディングスはウラジオストクに日本スタイルの居酒屋をオープンさせました。JGCがウラジオストクにリハビリテーションセンターを開設します。もちろんビジネスベースなので、利益を生み出すということが前提です。こうした取り組みは、日ロ関係の多角化につながるほか、ロシア国民の居住環境の改善、ひいてはロシアの産業高度化に寄与するものと考えます。
スプートニク:ロシア、特に極東の、投資先としての利点と欠点についてご指摘ください。日本の投資を更に呼び込むためにロシアがとるべき追加措置とは何でしょうか。
齋藤氏:10年前と比べればビジネス環境は良くなっているものの、煩雑な行政手続きなどは対ロビジネスの障壁の1つとなっています。そもそも新型特区(TOR)やウラジオストク自由港をつくるということは、その地域のビジネス環境に問題があるということです。だからこそ、プーチン政権からすれば、まずは地域を限って税の優遇措置や規制緩和を受けられる特別な実験的なエリアをつくるということになったわけです。そのことにようやく気づき、ビジネス・投資環境の改善に乗り出しているのが、いまのロシア極東です。
投資を呼び込むための、税の優遇措置や規制緩和の内容は充実しています。一方、実際に進出企業をサポートする人材や制度が追いついていないような印象を受けます。特区に進出する企業関係者に聞いた話ですが、許認可手続きの簡素化やワンストップサービスはできておらず、極東発展省も極東開発コーポレーションも、頼りにならないとのことです。その企業は、問題が起きたら、まずは地元政府に連絡をとるようにしているそうです。こうした声に真摯に耳を傾けて、投資環境の改善、特区進出企業にとって、ビジネスのしやすい環境づくりに努力してくれるよう期待しています。
齋藤氏:ロシアは、組立生産のみでは満足せず、産業や雇用への波及効果が大きい部品生産企業の進出や現地企業の育成を目的に部品の現地調達率の向上を求めています。一方、日本企業も、コスト低減の観点から、優良な現地部品供給業の成長に期待しています。しかし、依然として、十分な品質を確保できないため、現地での部品調達がままならないという実態があります。
そこで、は今年から、8項目の協力プランのひとつ、「ロシア産業の多様化促進と生産性向上」に貢献する事業として、「ロシア企業の生産性診断及び裾野産業の人材育成にかかわる訪日研修事業」を実施しています。「ロシア企業の生産性診断」は、ロシア各地の12の生産企業へ日本からコンサルタントを派遣し、ロシア企業の生産性向上に向けてアドバイスを行っています。また「裾野産業の人材育成」に関しては、25のロシア企業から百名以上の技術者を日本へ招へいし、各種の研修を実施しています。
こうした事業がきっかけとなり、新たな産業設備や機械の導入や生産性向上、品質向上に向けた人材育成や経営組織の近代化が図られ、ロシア企業が、世界各国に工場をもつ企業のサプライチェーンに入るための課題をクリアできれば、日本企業との間でも、ウィンウィンの関係を築けると確信しています。