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10年ほど前からロシアに関心をもっていた佐々木社長。ウラジオストクで50件もの物件を見てまわり、ターミナル駅に近い高級住宅街に、大きくはないが快適な空間を作れる場所を見つけた。ロシア人の好きな屋外テラスもつけ、ハイランクの居酒屋として店をスタートさせることにした。
「炎」の名物料理は、独特の食感とあふれる肉汁が楽しめる「生つくね」だ。このメニューは、ロシアでも絶対に外すことができない。日本の店舗では生つくねのために、契約養鶏所から仕入れた若鶏を自社工場に直送しているが、ロシアではロシアの鶏肉と調味料を使って作らねばならず、満足いくレベルに仕上がるまでレシピの試行錯誤を繰り返した。しかしそれでも、鶏肉そのものが違うため、日本と全く同じ味を出すことはできない。佐々木社長は「将来的にはロシアで、生つくねや唐揚げに合う鶏を育てたい」と話す。
しかし、理想の味を目指して奮闘する努力が、いつも理解されるとは限らなかった。ロシア人スタッフに試食させてみると、「どれも美味しい。どこに問題があるのか?」となってしまうのだ。実際、目の前の料理以上の料理を食べたことがなければ、改善点をイメージするのは難しい。そこで3月、開店1か月前にロシア人スタッフを北海道に招き、札幌の店舗で研修を受けさせることにした。
研修を受ける中でロシア人スタッフが最も感銘を受けたのが、厨房のオペレーションだった。ロシアのレストランでは「一人一役」で役割分担がなされており、注文が集中すると料理がなかなか出てこないことはよくある。「炎」では、一人のスタッフが様々な仕事をこなし、その場の必要に応じて動くので、無駄がないのだ。宴会や温泉といった純日本風のレクリエーションもあり、日本文化を総合的に体感することができた。
オープン後、意外なメニューの人気があることがわかった。枝豆のリピーターが続出したのである。ロシアには枝豆を食べる習慣はなく、そもそも枝豆を見たことがないという人ばかりだったが、今では定番メニューとして定着した。大勢でつつきながら食べる鍋も人気がある。日本在住のロシア人から「口から豆の皮を出したり、一人前ずつに分かれていないスープを飲むのはロシア人にとって抵抗があるのでは?」という意見もあったが、杞憂に終わった。
佐々木社長は「実際に店を構えてみて初めてわかることがあるので、一部の話だけを聞いて駄目と思っては駄目です。その料理を食べたことがなくても、食べてみて美味しければそこに需要はあります。枝豆もそうですが、何でも最初は1キロ、2キロといった輸出から始まるので、日本からロシアに少量の食品を輸出できるインフラを、どう作り上げるかが課題です。今まで知られていなかった和食がロシアで根付き、それが新しい食文化となるように、この店を発信基地にしていければ」と話す。
佐々木智範副社長は「店を開くことは誰にでもできますが、続けるためには常に改善をし、お客様に喜んでもらわないといけません。流行や好みの変化も激しいので、日本でもロシアでも進化を続けたい」と話している。