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フィルムは、紙おむつなどにも使われている「ハイドロゲル」でできており、表面に無数の小さな穴が開いている。と言っても見た目は何の変哲もないので、素人目には食品用ラップのように見えてしまう。フィルムは水と養分だけを通し、害虫や病原菌を通さないので、農薬を使う必要はない。植物はフィルムの上で育ち、フィルム内にある水を何とかして吸収しようと、精一杯の力でフィルムの表面に根を広げていく。その際、たくさんの糖分やアミノ酸が作り出されるので、糖度も栄養価も高い農作物ができるというわけだ。
この方法を使うと、地面と栽培システムは止水シートによって完全に隔離される。そのため土壌が汚染されていても、干からびていても、あるいはコンクリートの上でも、関係なく栽培できる。既にアラブ首長国連邦の砂漠地帯ではトマトが栽培されており、来年にはサウジアラビアやカタールにも拡大していく計画だ。
ロシア南部スタヴロポリ州にあるトマト生産最大手の農業会社「エコカルチャー」はロシアで初めて、メビオールのフィルム農法を用いたトマトの試験栽培を来月にも開始する。日照時間が少なく、自然条件が厳しいロシアでも、美味しいトマトができるのだろうか?
展示会「黄金の秋」では、メビオールのフィルムを使って北海道で栽培された高濃度トマトの試食が行なわれ、甘さに驚きの声が上がった。エコカルチャーのチムール・ルィジコフ取締役も、栽培開始に向けて手ごたえを感じている。
森氏の画期的な発明は、かつては野菜栽培など考えられない、と思われていた地域に新しい農業の可能性をもたらした。ロシアは広い国土を持つが、土壌や日照時間の問題で、農業に適さない地域がたくさんある。首都モスクワでさえも冬場は野菜や果物がスーパーの店頭から半減し、価格は上がり、多くを中国や南米からの輸入に頼っているのが現状だ。今後ロシアでは、このフィルムを用いた植物工場の研究も本格的に進められていく。メビオールの技術で無農薬野菜が一年中どこででも栽培できるようになれば、ロシア人の食生活と健康状態は劇的に改善するだろう。