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その前に、「共和国」という名称がピンとこない人もいると思うので説明すると、共和国はロシアにおける行政単位の一つだ。日本における都道府県のかわりに、ロシアでは共和国・州・地方・連邦市・自治管区・自治州というような名前がついている。それぞれの地域のリーダーの呼び方は、「首長」や「知事」など色々あるが、全員、日本で言うところの県知事のようなものだと考えてもらえばよい。
外国企業の投資誘致に積極的に取り組んでいるイグナチエフ首長は「ビジネス環境向上は、最も重要な政策」だと話す。実際チュヴァシ共和国は、ロシア国内の2017年度投資環境ランキングで、タタルスタン共和国に次いで2位を獲得している。
イグナチエフ首長「ビジネスの初期段階には障害がつきものです。それを乗り越えて、その先の協議に入らないといけません。我々ができるのは、ビジネスに最適な環境を作ること。私は共和国内のあらゆる会社にとって、「メインの助手」でありたいと思っています。法的基盤と政治状況の許す限り、それぞれの会社一社ずつに対し、最初から最後まで後見役を務め、お世話したいと考えています」
海外企業誘致にあたり、関係者は「日本のプライオリティは非常に高い」と口を揃える。チュヴァシ共和国にはドイツやスペイン、スイスなど、欧州の大手製造業が既に進出しているにもかかわらず、なぜ日本なのか?きっかけは意外にも、安倍首相がふるまった日本食だった。
イグナチエフ首長「2013年4月に安倍首相がロシアを訪問した時、非常に多くの日本企業関係者もロシアを訪れました。かつてあんなにたくさんの企業関係者がロシアを訪れたことはありませんでした。安倍首相が自ら日本食をふるまってくれる、という招待を受けて日本大使館に行きました。とても美味しかったです!環境に優しく健康に配慮した食べ物を食べたいという願いは、日露共通です。この出来事を通し、日本のパートナーとの間で、新しい議論のテーマと新しい友情が生まれました。我々は農業関係者の代表団を送りあうことにし、互いに農場を視察しました。こういった人と人とのコンタクトが相互理解に役立ちました。その過程で日本文化に触れたことで、日本人の中にはとても多くの伝統と精神性が息づいていると分かりました。我々も、チュヴァシの文化や風習と、多民族国家であるロシアの特長を、最大限残していこうと努力しています。良い意味で驚いたのは、我々と日本人の家族観がとても似ていることです。そのようなわけで日本人に対して精神的にとても近しい感情を覚えたのです。素晴らしい頭脳と技術をもつ日本人から学び、新しいアイデアを取り入れたいと思います」
イグナチエフ首長は農業博士でもある。旬の野菜をふんだんに使った美味しい日本食によって、農業にかける情熱と日本への関心がグレードアップしたようだ。
チュヴァシ共和国のスヴェトラーナ・イワノワ財務副大臣は「ここはまだまだ発展途上国です。隣のタタルスタン共和国にあるような石油もなければ、ニジェゴロド州にあるような巨大な自動車工場もありません。でも知識を貪欲に吸収し、発展しようとする人材がいます」と言う。チュヴァシ共和国は、理系人材の育成プログラムに重点的に予算を割き、製造業を盛んにすることで、経済を前進させている。チェボクサルィにある子ども科学技術パーク「クワントリウム」では、子どもたちが放課後に本格的に化学、生物、ロボット工学やITなど、特定の分野をみっちり学んでいる。費用は無料で10歳から17歳までレベル別に学べるので、大学に入る頃には、もう専門家の卵になっている。チュヴァシ共和国はモスクワから飛行機で一時間程度の距離だが、モスクワに比べて格段に人件費が安く(平均月収はモスクワの3分の1)理系の優秀な人材を確保できるとあって、外国企業にとって魅力が高い。
以上、ビジネス目線からのチュヴァシ共和国のおすすめポイントを挙げてきたが、様々な民族が調和的に共存して独自の文化を形成しており、文化人類学的観点からも面白い場所だ。それについてはまた別の機会に譲るが、気になった人はモスクワ訪問のついでにぜひ自分の目で確かめてみてほしい。