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従来の信号システムでは、交通量などのデータの送受信と処理に時間がかかり、実際の道路状況と信号制御との間にギャップが生じてしまっていた。しかしARTEMISは、路上に設置されているコントローラがデータを処理するため、流入交通量を正確に予測し、適切な信号制御ができる。また、道路を拡張したり大規模な中央装置を設ける必要はなく、設置したい交差点にピンポイントで導入できるため、低コストで始めることができる。
モスクワ市交通管制センターのワジム・ユリエフ長官によると、モスクワの交通状況はきわめて深刻で、この20年間、車の数が増え続けているという。モスクワにおける1車両あたりのスペースは27平方メートルで、東京23区の62平方メートルに比べて半分もない。インドネシアの首都・ジャカルタのようにナンバープレートの奇数・偶数で交通量を制御するような都市もあるが、ユリエフ長官は「モスクワとしてはドライバーに厳格なコントロールをせず、渋滞を解消したいので、信号制御に大きな希望を抱いています」と話している。
この信号システムの導入を待ちこがれていたのが、ロシアの南西に位置するヴォロネジ市である。人口103万人のヴォロネジ市もまた、渋滞がひどいことで有名だ。同市はまもなく、市内の10交差点でARTEMISを導入する。
ヴォロネジ市は日露都市環境分野協力のモデル都市となっているため、様々な業種の日本企業が都市環境改善に貢献している。
ヴォロネジ市の第一副市長で都市経営担当のワジム・クステーニン氏は「当市ではナイス社のスマートウェルネス住宅建設と積水化学工業による水道管のリノベーション事業がすでに始まっています。高度交通信号システムは日本企業が関わる3つ目のプロジェクトで、2か月以内には実証を終え、結果を出したいと考えています。そして4つ目には、地下鉄を作り、日建設計の協力を得て、駅を中心とした街づくりをしたいと思っています。日本企業との仕事は正確で遅滞がなく、信頼関係をもって進めることができています。日本企業の皆さんとともに全てのプロジェクトを効果的に実現したいです」と話している。
NEDOは信号システム以外でも様々な分野で日本の技術を普及させる活動を行なっている。現在、ブリヤート共和国において、日本の廃棄物処理技術の普及拡大に向けたプロジェクトの事前調査を行なっている。また、極寒のサハ共和国においては、風力発電プロジェクトの事前調査を進めている。サハ共和国のプロジェクトは、カムチャッカ地方での成功体験がもとになっている。
NEDOの佐藤嘉晃(さとう・よしてる)理事は「安倍政権のもとで、ロシアが重要な国であることは政策として明らかです。その政策のもと、NEDOも積極的にロシアで技術開発協力を行なっています。実証事業を行なうことで設置コストや運用コストが明らかになるので、それを見てロシア側が導入の可否を決めることができます。成果がわかると、他の地域からも『うちもやりたい』という話が出るので、特に第一号案件は慎重にしっかりと見せなければ」と話している。