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トランプ氏は、日本は米国に何百万台もの自動車を輸出している一方で国内市場からは米国製品を締め出していると主張している。1年前、訪日の際に行ったトランプ氏の声明は日本のメーカーにショックを与えたにちがいない。トランプ氏は日本のメーカーに対して米国で生産を拡大するよう呼びかけたのだ。ホンダ、トヨタ、スズキがすでに1980年代初頭に初めての海外組立工場を作ったのが米国であるという情報をトランプ氏は知らないに違いない。現在、北米における日本の企業は平均で年間400万台を生産している。これは米国で買われる日本車のほぼ75%に相当する。そのうち半分が米国中に点在するトヨタ自動車工場で生産されたものだ。トランプ氏の訪日の前にトヨタとマツダはアラバマ州に年間30万台を生産する工場を開設するという声明を行っていた。
自動車業界に詳しい佃モビリティ総研の佃義夫氏は、「日本で米国車が売れない理由は企業努力が足りないから。日本は自動車輸入関税もなく、障壁はない」と指摘している。また佃氏によれば、日本の自動車メーカーは米国に工場を構えることで、約150万人もの雇用を生み出している。
菅内閣官房長官は米国との貿易交渉では日本は自国の国益を犠牲にするつもりはないと明言していた。
米国市場の日本車販売をめぐる厳しい論争はここ10年で始まったことではない。戦略的コミュニケーション・センターのドミトリー・アブザロフ所長は、論争は鎮火、激化を繰り返して続けられているとして、次のように語っている。
「 『戦闘行動』はこれまでもずっと続けられてきたが、今になって日本は新たな憂慮を感じ始めた。トランプ氏の保護貿易主義は二国の同盟関係に脅威となっている。国家安全保障を理由にスチール、アルミニウムに対する関税が導入されたのは安倍氏にとっては不快なサプライズであり、日本国内の憂慮をさらに増した。激しい意見の対立はほかの二国間貿易収支に関する問題においても依然として残っている。」
「米国市場を日本車のために開放する代わりにトランプ氏は日本市場への米国農産品の参入権を獲得しようとしている。日本の農産品市場は巨大だが、保護貿易的な高い関税で守られている。トランプ氏は交渉で安倍氏に障壁を取り除くよう迫るつもりだ。」
高等経済学校のアレクセイ・ポルタンスキイ教授は「あからさまな保護貿易主義で経済成長を成し遂げられた人はかつて誰もいない」として、次のように指摘している。
「米国自動車産業にとってトランプ氏の政策は極めて儲けが少ない。部材の一部は外国で生産、組立がなされているのに、今度はそれを高い関税を払って国内に運ぶことになるからだ。我々はグローバル経済時代を生きている。この世界では貿易関係、生産連鎖は巨大であり、うまく策定されている。例えば福島で悲劇が起きたとき、ドイツの自動車工場のほとんどが危うく操業停止に陥った。なぜなら部材は日本から運ばれてきていたからだ。妥協の道をさぐり、意見をすり合わせねばならない。」
米自動車メーカーの意向とトランプ氏の言動がリンクしていないのは明らかだ。佃氏は、「日本で、ドイツ車など輸入車市場が伸びているのに日本人が米国車を選ばないのは、米メーカーの日本市場に対する戦略意欲が低いからです。フォードは日本事業から撤退しましたし、GMは日本の道路に合う右ハンドル車を導入していません。日本は国産メーカーだけでも12社あり、世界一の激戦市場とも言われています。このグローバル時代において、米メーカーは『選択と集中』で日本市場をあきらめ、世界一の市場である中国に意識を集中させているのです」と話している。
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