スプートニク日本
金政氏によれば、若者のデート率低下は驚くことではなく、文化的および環境的要因が大きいという。デート経験率はこれからも緩やかに下がるか、あるいは現状維持だろうと話す。
金政氏「日本では30年前の調査からあまり変化なく、現在恋人のいる人の割合は3~4割なのに対し、アメリカでは6~7割。若者の草食化、絶食化など言われますが、データから見れば今に始まったことではありません。現代の日本には、恋愛しなければならないという社会的なプレッシャーがなく、カップルができにくい文化形態だと言えます。アメリカなど、カップル推奨の社会では、レストランに1人で行くのが気まずかったり、高校のダンスパーティーで相手を見つけないといけなかったりと、ある意味無理やり人間関係を築くことが求められます。日本ではそういう強制的にモチベーションを高める要因がないので、恋愛から目を背けてもいいわけです」
ロシアにもアメリカの「プロム」に相当する、高校卒業時のダンスパーティーがある。例えば昨年6月、モスクワ市は午後8時から早朝6時まで夜通しの卒業パーティーを主催した。大学でのダンスパーティーも多く、大人になってからも結婚式やイベントに呼ばれる際は、(交際の程度に関係なく)自分のパートナーを連れて行くのが当たり前という風潮がある。カップル成立の「社会的なプレッシャー」という観点ではアメリカ並みだろう。
金政氏は、日本人は無意識的に、依然として「恋愛や結婚に関して男性がイニシアチブをとるべき」と考えている、と指摘する。
金政氏「男女平等の概念が広まっているにもかかわらず、こと恋愛や結婚に関しては、男性がアプローチするものだと意識が根強くあります。告白するということはイエス・ノーを相手にゆだねるということ。断られたときのショック、リスクは計り知れません。わざわざ傷つくようなことはしたくない、というのは誰にとっても当たり前で、恋愛や結婚については男性からアプローチすべきだというメンタリティが変化しない限り、社会も変わらないでしょう」
金政氏「以前は、異性と話すことが得意でも苦手でもない層がいて、そういう人たちも周囲の助けでどんどん結婚していたわけですが、今ではメディアや最新ガジェットの影響で『別に恋愛しなくてもいい』『他に楽しいことがある』と、恋愛しないグループの方に移行していき、中間層がいなくなったという印象です。80年代、メディアは恋愛の楽しさを強調していましたが、今ではストーカーやデートDVなど、恋愛のマイナス面も広く知られています」
結婚のうち約9割が恋愛結婚の日本で、「恋愛しない」グループが膨張するということは、結婚に至るカップルの激減を意味する。日本の生涯未婚率は、現在、男性で約4人に1人、女性で約7人に1人だ。生涯未婚率の増加は、女性の社会進出が進んだから、といわれるが、日本よりもずっと女性が活躍しているアメリカでも、生涯未婚率は日本ほど高くないとされる。女性のキャリアアップより、リスクを取ることを恐れた男女がこう着状態になり、恋愛にまで発展しないことが未婚化の原因だろう。
ちなみにロシアでは、高校時代に培ったコミュニケーション力がその後の人生にも生かされているようだ。大都市の若者の間で「スピード・ディーティング」(回転寿司形式のお見合い)という会話力が試される短時間勝負の出会いが人気なのも、自分に自信のある証拠だろう。
しかし未婚率などを知るにあたり、単純に日本と数字を比べることはできない。戸籍・婚姻届によって正確な数値を知ることができる日本とは違い、ロシアの調査は聞き取り形式で、本人の自己申告によるものだ。2018年の全ロシア世論調査研究センターの発表によると、調査時点で独身であると答えた男性が16パーセントだったのに対し独身女性は7パーセントと、不可解な数字が出た。
モスクワ大学人口動態経済研究所のボリス・デニソフ研究員によれば、この数字の開きは、独身であることを隠す女性が多いことと、未亡人が自分を既婚だとみなしているためだと見ている。ロシア高等経済学院・人口動態研究所のセルゲイ・ザハロフ副所長は、「同棲あるいは市民婚しているカップルの場合、女性の多くは自分は既婚だとみなし、男性は公式に結婚していない限り、独身だと答える。法律的に結婚しているが別居している場合も、独身だと答える男性が多い」と話している。ロシア男性が(世論調査に対してさえ)独身と答えるのは、できる限り恋愛市場に留まっていたいという潜在意識の表れなのかもしれない。