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テルミンの中には、発振周波数が固定されたものと可変のものの2つの発振器が入っている。固定周波数の発振器には水平アンテナが、可変周波数の発振器には垂直アンテナが取り付けられている。その間の空間に電磁場が発生し、手を近づけることでそれが揺れ始める。発振器の信号は検知器に送られ、検知器が音の周波数をアンプに送る。こうして、ひとつの動きで8オクターブまで音を変化させられる。
レフ・テルミンの人生は奇想天外でドラマチックだった。彼は栄光と成功を経験し、屈辱と忘却を体験した。運命は彼をヨーロッパ、アメリカに赴かせ、また、コルィマの収容所に追いやった。彼は多くの新技術や曲を生み出したし、ロケット技術の開発者であるセルゲイ・コロリョフとともに働き、国立モスクワ大学で勤務し、テルミンのコンサートを開催した。レフ・テルミンは1993年、モスクワで家族に囲まれ97歳で亡くなった。
レフ・テルミン自身の演奏:
スプートニク:テルミンに一番適しているのはどのような音楽だと思いますか?
ピョートル・テルミン:最初の作品は1920年代にすでに作られていました。初期の作品の中にはシリンゲルの「アエロフォニック組曲」やボルスラフ・マルティンの「ファンタジー」などがあります。現在も、作曲家はテルミンのための音楽を書いています。けれど、私にとって最も重要なのはアカデミックな音楽という方向性です。私は、現代の作曲家は、演奏家もそうですが、まだテルミンの可能性を最大限に活かしきれていないと思っています。私はときどき自分でも作曲をしています。最近は、フランスの監督マシュー・マーチンの短編映画『ウラジーミルとワルツ』の中で私の曲『Timelessnes』が使用されました。昨年は、ヴィテプスク美術学校を描いた映画、パリのポンピドゥー・センターとニューヨークのユダヤ博物館での展覧会『シャガール、マレーヴィチ、リスニツキー』用にアヴァンギャルドなサウンドトラックを収録しました。
また、昨年はテルミンとハンガ(ハングドラム)の二重奏の初演が行われました。これは民族音楽と電子音楽の境界にある新しいサウンドです。映画音楽においてテルミンという楽器はまだ開花しているとは言えません。ですから、私にとっては、この方向性もとても関心のある仕事なのです。
テルミンとハンガの二重奏:
スプートニク:日本ではテルミンの中身をマトリョーシカに入れた楽器がマトリョーミンと呼ばれています。日本のテルミン愛好家とは連絡を取っていらっしゃいますか?
ピョートル・テルミン:日本では数千人がテルミンを演奏しています。世界で最もテルミンな国です。数年前、私はレフ・テルミンの娘ナタリヤと一緒に日本で公演し、日本のテルミン・スクールとその設立者である竹内正実さんと友好関係を築きました。彼の作ったマトリョーミンはマトリョーシカの中に入った簡易版テルミンで、日本でとても人気のある楽器です。また、私たちは今年9月に日本に招待されています。テルミンの誕生100周年を記念して、世界最大のテルミン・オーケストラの公演が行われます。その数、300人以上です!ギネス記録を目指しているそうです。テルミン・スクールは世界でもロシアと日本にしかなく、それぞれに独自の伝統的なサウンドがあります。
(日本のアンサンブルのサイト)
ピョートル・テルミン:2019年1月に竹内正実さんと濱口晶生さん、日本のテルミン・アンサンブル「Mable and Da」を迎えて、ペテルブルグのシェレメチエフ宮殿でフェスティバルコンサートを行い、100周年のイベントを開始しました。数ヶ月前には、初めてのコンクールとなる「Theremin Star」を立ち上げました。10日毎に世界中の素晴らしい演奏家の動画が公開され、インターネット投票でファイナリストが決まります。最終選考は2019年12月に行われ、優勝者は記念フェスティバル「テルミノロギヤ」で演奏し、残りのファイナリストたちはテルミン100周年記念の賞を受け取ります。今年末には、テルミン・スクールとレフ・テルミンに関連する品を展示した博物館とテルミンセンターをオープンしたいと強く期待しています。
ピョートル・テルミンの演奏:
テルミンを使用した作曲家や音楽家は、ショスタコーヴィチやジャン・ミッシェル・アンドレ・ジャールからレッドツェッペリンやスティングに至るまで、数多い。テルミンは映画『地球が静止する日』 のサウンドトラックやアメリカのドラマ『ハンニバル』 やテレビアニメシリーズ『ザ・シンプソンズ』 などで使用されたことで広く普及した。