ロシア科学アカデミー会員でシュマコフ記念国立移植人工臓器医療調査センターのセルゲイ・ゴチエ所長も同じく憂慮を示している。
「日本の研究者らの行っていることは異種移植と言われるものです。このメソッドを使う際に一番障害となるのは感染の危険性です。人獣共通感染症が人体に入り込む恐れがあるからです。同種移植であれば、ヒトが臓器のドナーであるのでこうした恐れはありません。」
日本政府は中内氏の申請を許可する前に社会的、倫理的観点からこうした実験を検討し、 最終的に「人と動物との境界があいまいな生物が生まれないように必要な措置をとる」ことを条件に研究を許可した。専門家らの間からは、実験ではヒトの細胞が必要な臓器を形成するにとどまらず、動物の脳や中枢神経の発達に影響しうる深刻な憂慮が表されている。端的に言えば誕生した生命体が思考、情感をもった本物のキメラになるのではないかという危惧感がもたれているのだ。
中内氏はこれに対し、ヒトの細胞の割合が30%を超えた場合は実験を中止すると断言している。とはいえ、こうした実験が予見できない結果につながりかねないと、危険を指摘する声は研究者内にはある。ゴチエ氏はこれについて次のように語っている。
おそらく最も知られている例は「ベイビー・フェイ」だろう。1984年、カリフォルニア州で生まれたステファニー・ボークレルはヒヒからの心臓移植を受けたが、術後、21日目に臓器が機能不全を起こし、死亡した。
臓器ドナーに人間を使わず、動物を用いるというアイデアは決して今に始まったことではない。医療の歴史では異種移植は何度も試みられてきたが、そのどれも完全に成功したとは言い難い。
豚、サルを使い、このプロセスを完成させようというバイオ医療のスタートアップも存在する。かの有名な遺伝子学者、ジョージ・チャーチ氏も2015年、「eジェネシス(eGenesis)」というスタートアップを立ち上げ、分子遺伝学のメソッドを用い、人間に用いることのできる安全かつ効果の高い臓器、皮膚、細胞の代替源を作るため、豚の「改変」に挑んでいる。
「動物の胚を使った実験はハイスキルの研究員のマニュアル操作によって行われる上に、動物は長期間にわたって適正製造基準(GMO)の条件下に置いておかねばなりません。こうしたすべては当然治療費に反映されます。将来、こうしてできた臓器の移植は治療目的に限定されず、アンチエイジングにも用いられるようになるでしょう。でも高額であるためにこれを享受できるのは富裕層の中でも最も恵まれた人々だけになると思います。」
つい最近まで学術界ではヒトのクローン化および交配は正式に禁じられてきた。人工授精でさえ長い間安易に許可されてこなかったものの、試験管ベビーの第1号が無事誕生するや否や、この技術は正式に認可された。科学は実験を経ずに発達することはできない。とすれば生物学者らが動物に害を及ぼすことなく人間の命を救う手段を見つけられるよう期待するほかない。