「街は眠り、ウイルスは目覚める」
日本における新型コロナウイルスをめぐる状況は、3月の3連休に多くの人たちが桜の花見に出かけたときからコントロールが利かなくなり始めた。しかし、政府は専門家グループと一緒にウイルスの感染を抑制するための新たなクラスター(感染者集団)を懸命に探し続け、そして夜の産業で働く人たちに注目した。
一方で当局は、夜の商売から生じる潜在的な脅威を最小限に抑えるために同分野で働く人々に一定の社会保障を提供することがどれほど重要であるかをすぐには認識しなかったようだ。
4月のはじめ、日本の厚生労働省は、新型コロナウイルス感染拡大の中で子どもの世話のために働けなくなった人たちへの給付金支給のリストにナイトクラブや「風俗業」の従業員を含めなかったため激しい批判を受けた。厚労省によれば、この分野で働く人々は「暴力団」や「暴力主義的破壊活動を行った、または行う恐れがある団体」と同列であるため、「公金を投じるのにふさわしくない業種との判断」となったという。
その後、4月7日に加藤厚労相は風俗業や接客を伴う飲食業で働く人も対象にすると表明した。そして同日、安倍晋三首相は7都府県に対し「緊急事態宣言」を発令した。しかし、政府はある判断ミスを犯した。日本政府は、夜の産業はこの譲歩の後に要請を聞き入れ、一時的に営業活動を休止すると考えたのだ。
自己隔離のパラドックス
驚いたことに、7都府県に「緊急事態宣言」が発令されことが、4月17日に宣言の対象が全国に拡大された原因の一つになった。それはどういうことなのか?
夜の産業で働く人々の場合、社会的な保障がないという問題が特に深刻であることから、まだ「緊急事態宣言」の対象となっていなかった他の地域への移転は彼らにとってそこに生計を立てるためのなんらかの可能性があることを意味した。
また、「風俗業」の複数の代表者は、リモートで娯楽サービスを提供し始めた。しかし、パンデミックの中でこれが彼らの「救命浮輪」になるかは疑わしい。
差別への対応としての差別
子どもの世話をするために仕事を休んだ保護者向けの助成制度の対象にナイトクラブと「風俗業」の従業員を含めたことは、彼らが社会的保護を受ける権利を認めるという点では小さいながらも勝利だと言える。しかし、こうした決定が実際に何らかの変化を生み出すことはなかったようだ。
夜の産業で働く者たちへの偏見的な態度は理解することができる。なぜなら東京では新宿や渋谷といった「夜の街」が犯罪発生率でトップを占めているからだ(なお、歌舞伎町では、死角をなくさないようにする防犯カメラシステムの使用により、この10年で犯罪件数が事実上半減した)。
ホストクラブやバーなどを約20軒所有する手塚マキ氏は、相互に信頼関係を築き、逆差別の悪循環を断ち切るために、「夜の世界」の人々を社会のれっきとした一部として認める必要があると考え、次のように語っている―
さらに、偏見があるにも関わらず、こうした店の多くは実際には他の業種の企業と同じように税金を納めている。しかし、歌舞伎町でホストクラブやバーといった多くの店を経営し、さらに高校で先生をしたり老人介護の仕事、本屋なども経営する風俗業界の有名人である手塚マキ氏でさえ、現在も偏見により、自分の店を維持するために必要な融資を受けることができない。手塚氏は、「見た目は派手に見えても、中身は自転車操業的な企業が殆どです。そして我々の取引先は、その打撃をもろに受けることになります。現状、まだ中小企業への融資から風俗業が除外されたままなので、除外を解いてくれないと、連鎖倒産する会社がたくさん出ることでしょう。会社が融資を受けられず、スタッフを見捨てなければいけなくなることは、彼らをますます地下に潜らせることに繋がります」と説明した。
「一般企業よりも、ホストクラブは売り上げがホスト個人と紐づくので売り上げをごまかしづらく、二重帳簿はしづらいと思います。うちは開業した17年前からすべての会社で納税しています。ホストたちからも源泉徴収しています。報酬が高く、確定申告で追加で払う人間には強制的に確定申告もサポートしています。報酬が低く、確定申告することで還付される人間には、個人に任せています」。
4月12日、歌舞伎町を夜間に訪れる人が72%減少したと報じられた。東京都の職員たちはプラカードやハンドマイクを持って特別にこうした「夜の街」を訪れ、自宅で過ごすよう人々に呼びかけている。
しかし、新型コロナウイルスをめぐる状況は日本政府を困難な状況に追い込んでいる。こうした状況の中、政府は全ての人の安全のために、その権利を認めることが拒まれている人たちを考慮しなければならなくなるだろう。