日本政府との協議に参加する研究者らは、原発汚染水の処理方法について、加熱して蒸発させる方法や地下深くに埋設する方法など、複数の案を検討したが、基準以下に薄めて海に放出する方法がもっとも安全で、経済的にもっとも安くつくという結論に至った。
日本政府はトリチウムなどの放射性物質は、世界で運転している原子炉から発生しているものだとし、人体に有害なものではないと主張している。また世界原子力機関(IAEA)のファラエル・グロッシ事務局長も同じ立場を示している。2月に日本の水処理施設を訪問した際、グロッシ事務局長は、処理水の海洋への放出はこの分野での国際的な慣行と一致していると強調した。
福島第一原子力発電所では、2011年3月に発生した津波により、6つの原子炉のうち3つで、核燃料の冷却ができなくなった。冷却剤と地下水が放射能物質を含みながら、損傷を受けた原子炉建屋に流入し続けたことから、数千トンの汚染水が原子炉に注ぎ込んだ。
水処理施設を運営する東京電力ホールディングスが貯蔵する処理済み汚染水は100トン以上となっており、2022年の夏ごろには満杯になると見られるが、処分に必要な設備の工事などに2年はかかるとされていることから、政府は早急に決定を下す必要性に迫られている。
日本政府の加藤勝信官房長官は、日本政府は政府の方針や決定時期を決めた事実はないとしつつも、結論を先送りしてはならないとの見方を示していた。
東京電力ホールディングスは円筒フィルターを使って汚染水を処理しており、ほぼすべての放射性同位体を除去しているが、1つだけ除去できないものがある。それは、放射線を出すもっとも軽い水素の同位体であるトリチウムで、これを取り除く効果的な技術は今のところ存在しない。
こうした理由から、完全に除染されていない水を海洋に放出するという決定はさまざまな方面から批判を受けている。
日本の漁業者によって組織されている漁業協同組合は、政府に対し、海洋放出には断固として反対するとの立場を表明した。漁業協同組合は、「処理水の取り扱いは国の重要課題であることはもちろん十分承知しているが、しかしながら、具体的にその処理水が海洋放出されるということになるなら、当然ながら、風評被害の発生が必至であり、ひいては全国の漁業者は挫折感を含めて将来の漁業の展望を壊しかねないという懸念をしている」と述べ、「漁業者がしっかりと頑張ろうとしている(原発の事故処理における)努力を水泡に帰すような重大な結果を招くことを憂慮している」と訴えた。一方、日本政府は引き続き、漁業者らと協議を行い、説明をしていくと約束している。このように、自国民との間では、こうした話し合いの場を持つことで状況を改善できる可能性はあるが、日本政府の決定に激しい反発を見せている隣国と、このような話し合いで問題を調整することは不可能だろう。
中でも韓国は処理水の海洋放出にあからさまに反対している唯一の国である。欧州連合(EU)諸国、太平洋に浮かぶ島国、米国は、この問題は日本の主権の問題であるとしながらも、海洋放出は海洋環境に影響を及ぼす可能性があるとして、日本の決定は国際協力に基づいて下されるべきだと付け加えている。
韓国は、日本の決定を懸念する理由について、公式的には、ほかでもない環境への影響を挙げている。海洋環境のような複雑な自然系への放射能の影響を完全に予測することは不可能であり、種が絶滅すれば、それを復活させることはできない。世論調査では、韓国市民は、日本が発表した処理水に含まれるストロンチウム、ヨウ素、ルテニウムといった発ガン性物質に関するデータの信用性を疑問視している。また日本の地方紙、河北新報が2017年に行った調査では、ヨウ素129とルテニウム106の濃度は、84回の分析のうち45回、基準を超えていることが確認されている。ヨウ素129の半減期は1,570万年と長く、甲状腺がんを引き起こす可能性を有している。一方のルテニウム106は核分裂生成物で、大量に摂取すれば毒性を持ち、体内に入れば発がん性を持つ可能性がある。グリーンピース・ドイツ支部の原子力専門家、ショーン・バーニー氏は、日本政府は、環境的に許容される唯一の処理水問題の解決法を選択するべきだ―つまり長期的に保存し、トリチウムを含む放射能をすべて除去する責任を負うべきだと述べている。
朝鮮半島は地理的に日本と近いことから、もっとも大きな汚染の被害を被る可能性がある。一方、これに関する韓国の立場には北朝鮮も同調しており、国営メディアは日本政府の提案について、地域に放射能災害を引き起こしかねない「犯罪行為」だと非難している。
世論の圧力を受け、日本が今回の決定を覆すかどうかは今後、はっきりするだろう。しかし、近隣諸国が、今のようにただ批判したり抗議するのをやめ、我々共通の地球に害をもたらすことなく汚染水を安全に処理する方法を共に模索するために、科学的、経済的、技術的な支援を日本に申し出たならば、問題解決への道はずっと容易なものになるに違いない。