また、ビジネスパートナーから、地下鉄駅と直結した巨大ショッピングモール「ユーロペイスキー」という好物件を紹介されたことも、ロシア進出の決断材料となった。
2019年8月には現地に子会社を設立。本来はそれから約1年後の今夏にオープンを予定していたが、コロナで工事の中止や納期の遅れなどが重なり、年末へずれこんだ。
店舗立ち上げは苦難の連続
日本では、エリア室長などを歴任し、店舗立ち上げや運営のノウハウを熟知する中川氏。ロシア一号店オープンという重要任務を果たすべく、モスクワにやってきた。中川氏は、モスクワ着任から現在までを振り返り、「日本と比べてオープンまでに3〜4倍の時間と労力がかかりました。感覚が違いすぎて、日本では考えられないようなことが色々とありました」と話す。
特に、日本と違ってロシアでは「スケジュール」があっても、その通りに進むことは非常にまれで、全てが成り行きで進んでいく。「これをしてほしい」と伝えていたはずでも、細部まで契約書に書かれていないと適切に実行されなかったりする。また、日本やアメリカからの高額なゲーム機をロシアに持ってくることも、神経を使う作業だ。輸出入や許認可関連の申請など、あらゆるトラブルを乗り越え、開店までこぎつけた。これらの準備の半分以上は、コロナ禍の中で行われた。
コロナ禍のストレス、スポーツで解消
非常時において、ラウンドワンのような施設は衣食住のどれにも当てはまらないため、必要不可欠ではないとみなされ、クレームの対象になったりする。実際、東日本大震災後の営業再開時にも、賛否両論があった。しかし、ストレスフルな生活を強いられていた人々からは「再開してくれてありがとう」「久々に子どもの笑顔が見れた」と感謝の声が届き、それが社員の誇りにもなっている。心のゆとりを完全に失ってしまわないためには、「遊び」の要素を適度に生活に取り入れることが必要だ。
中川氏は、「コロナ対策を徹底し、安全確保を最優先にするのは当然のこと」とし、「その上で、皆様の笑顔を作るお手伝いをするのも、ラウンドワンの務めです。地域に密着し、「コロナ禍で大変だけれど、頑張ってくれ」と言ってもらえるような、愛されるお店を作っていきたい」と決意を固める。
モノだけでなく、接客の質を高めたい
ロシア一号店として、最新の設備を取り揃えるのはもちろんだが、それ以上に力を入れているのは、接客だ。ゲーム機やボウリングがあれば、もちろん人がいなくても楽しめるが、中川氏はそれだけでは足りないと考えている。
中川氏「スタッフの気遣いや思いやり、お客様へのサポートによって、さらに楽しい時間を過ごしてもらいたいと思っています。研修でも、お客様に「また来たい」と思ってもらうためには何をするべきか、自分たちで言動を考える必要がある、という点を重視しています。今はオープンしたばかりでまだお客様が少ないので、適正人員になったときに質の高い接客ができるかが、今後の課題です。」
14日のグランドオープンには上月豊久・駐ロシア大使も駆けつけ、「ここにいると日本のように感じる、このようなレジャー施設は日本文化の一部」だと挨拶した。ステージに見立てたボウリング場では、テープカットとラウンドワン恒例のボウリング始球式が行なわれた。
コロナの影響で今後の店舗展開は白紙の状態だが、いずれにしても、まずはユーロペイスキー店がモスクワで受け入れられることが第一関門だ。中川氏は「前進する、と言うよりも、ロシアでのやり方を模索し、どうすればラウンドワンを浸透させることができるかを念頭に、テスト&チャレンジを行なっていきたい」と話している。