2020年1月には、安倍晋三首相(当時)がモスクワで5月に行われる対独戦勝75周年記念式典に参加を検討していることが報じられたが、コロナ禍のため訪露は見送られた。5月には日本側からの呼びかけで日露首脳の電話会談が行われ、コロナ検査キット共同開発を含む、コロナ対策における日露の協力について話し合いがなされた。
日本から政財界の要人が多数参加していた、国際経済フォーラムも軒並み中止になった。特に5月〜6月に行われるサンクトペテルブルク経済フォーラム、9月にウラジオストクで行われる東方経済フォーラムは、直接ロシアの政策責任者と話し合いができる貴重な場だったが、今年は叶わなかった。
スプートニクは「ポスト安倍」の日露関係について日露の識者に取材した。「経済や人的交流の面での日露関係の悪化はないが、(新政権にとって)日露関係の優先順位は下がる」(上野俊彦氏、元 上智大学外国語学部教授)、「安倍氏は辞任後も対露政策の指導者であり続け、日露関係が後退することはない」(アレクサンドル・パノフ氏、元駐日ロシア大使)、「対露関係に入れ込んだにもかかわらず、何の益もなかったことから、菅氏が同じ過ちを犯す可能性は極めて低い。首相の訪露回数も減り、日本政府が実業界にロシアへの投資を積極的に促すこともなくなるだろう」(ジェームズ・ブラウン氏、テンプル大ジャパンキャンパス准教授)といった様々な見解が聞かれた。また、全ての専門家は共通して、今後「平和条約締結への劇的な展開は見込めない」と指摘した。
個人的な親交を深め、対話を重ねてきた安倍・プーチン両首脳。しかし安倍氏辞任の直後、ペスコフ大統領報道官は「安倍政権は平和条約に近づくことはできなかった」とクレムリンの見解をコメントした。9月29日には、菅義偉首相とプーチン大統領の初の電話会談が行われた。
毎年恒例となっていたビザなし交流もコロナの影響を受けた。共同経済活動に向けた訪問はおろか、元島民の墓参や自由訪問も、一件も実施されなかった。そこで北海道は元島民の声を受け、日本側の独自事業として中標津空港発着の航空機による上空慰霊を計画し、10月21日に史上初の上空墓参が行われた。
コロナ禍で見出す、日露の新しい可能性
日露間の行き来が制限されたことで、従来のイベントがオンラインになったり、全く新しいイベントが生み出されたりした。
11月17日には、科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム(STSフォーラム)日露ワークショップが初開催され、両国の政府関係者や民間研究機関、産業界や教育界の代表者らが参加した。「Toward the post COVID-19 era」のテーマに基づき、ポストコロナ時代の日露双方の社会的課題と、科学技術及びイノベーションによる課題解決について議論が行なわれた。こういったイベントは挙げていけばきりがないほどだ。
ロシアビジネス、黒字見込みの企業が過半
ロシアビジネスに関わる日系企業にとって、駐在員の日露間の移動や感染防止対策など、コロナは大きな影響をもたらした。しかし悲観材料ばかりではない。ジェトロが9月に行った、ロシアに進出する日系企業を対象としたアンケート調査では、2020年の営業利益見通しを「黒字」と回答した企業の割合が全体の55.9%を占め、過半を維持した。これは、韓国(71.8%)、中国(63.5%)に次いで多い数字で、ジェトロは「各社とも黒字を維持するための措置や経営努力が奏功している」と背景を分析している。詳しい日系企業実態調査の結果はこちらから閲覧できる。
日本は28日から、変異種拡大防止のため、全ての国・地域を対象に外国人の新規入国を一時停止した。年が明けても、コロナに振り回される日々は続きそうだ。ただし、これまではロシアに縁のなかった企業がロシアで日本のアニメや動画コンテンツを広げたり、コロナ禍で航空便が激減したことによりシベリア鉄道を使った輸送手段が注目されるなど、日露をまたいだ新サービスも次々と誕生している。また、上記のジェトロ調査では、ビジネス活動が正常化する時期の見込みについて7割近い企業が「2021年内」と回答しており、ロシアで踏ん張る意思を見せている。2021年は、コロナと共存しながら、日露をつなぐ新しいビジネスのアイデアが生まれる年になるかもしれない。