トランプ大統領の持つ暗い記録
ドナルド・トランプ大統領は就任するまでの60日の間に、新記録を打ち立てた。米国連邦刑務所に収監されていた死刑囚の死刑執行が、17年ぶりに予定通り行われたのである。もしもすべての死刑囚の刑が執行されるとすれば、6ヶ月の間に、連邦裁判所で死刑判決を受けた13人の死刑が執行されることになる。
ウイリアム・バー米司法長官は、連邦政府の管轄下にある犯罪に対する死刑の執行を再開するよう指示した。こうした決定を下した理由について、長官は、「(共和・民主)両党の政治の下で、司法省は最悪な犯罪人に対する死刑は続けてきた」と述べている。
連邦レベルで最後に死刑が行われたのは2001年から2003年にかけてであるが、それ以前では、1963年に行われただけであった。
1963年に大統領の座に就いていたのは民主党のジョン・ケネディ、そして2001年から2003年当時の大統領は共和党のジョージ・ブッシュ・ジュニアであった。バー長官は「司法省は法の秩序を維持する。我々は犠牲者や遺族に対し、司法制度が定めた判決を実行する責任を負う」とも指摘した。
その後の歴代大統領は自身の任期中の死刑執行を先送りにしようとしてきたが、トランプ大統領の示す根拠も理解できるものである。
死刑に反対するバイデン氏
米新聞「ワシントン・ポスト」によれば、2003年以降、連邦政府は死刑執行を事実上、凍結していた。理由は、死刑を行う際の薬物注射が、死の直前に死刑囚に耐え難い痛みや苦しみを与える可能性があると考えられていることによる。2014年に複数の州でそうした例があったことから、当時のバラク・オバマ大統領は死刑執行を正式に廃止する可能性について検討していたが、実現には至らなかった。
バイデン氏は、死刑に代わるものとして、刑期減免の可能性を認めない終身刑を提案している。
米世論調査機関ギャラップによる最新の調査結果によれば、米国人の54%が死刑について、道徳的に受け入れられると考えていることが分かった。高い数値のように思われるが、実際には記録的に低いもので、1年前に較べても6ポイント低下している。
欧州とアジアの対立
死刑をめぐる欧州の立場は一義的なものではない。欧州連合(EU)で最後に死刑を廃止した国はフランスである。フランスが死刑を廃止したのは1981年、フランソワ・ミッテラン大統領の任期中であった。死刑廃止はミッテラン大統領の選挙公約の一つであった。
現在、欧州と旧ソ連圏において唯一、死刑執行を続けているのはベラルーシである。ロシアでは依然、刑法に死刑は含まれてはいるものの、事実上、執行は行われていない。1996年にロシアの初代大統領、ボリス・エリツィン氏が、死刑の一時停止を決めた。ロシアで最後に死刑が執行されたのは、12年の間に53人以上を殺害したロシア史上もっとも有名な連続殺人者、アンドレイ・チカチーロであった。
一方、アジアの多くの国々では今なお、死刑が行われている。中国では、正式な死刑執行数は公開されていないが、人権保護団体は、さまざまな統計をもとに、中国が世界でもっとも多くの死刑執行を行なっていると指摘している。死刑に相当する犯罪も、中国がもっとも多い。たとえば、100万ドル以上の汚職などもそうである。また2020年には、新型コロナウイルスに関連した犯罪に対しても死刑が処せられることになった。中国の刑法では、コロナ感染拡大の現在、偽造医薬品の製造、販売、汚職に関与した者や、故意にウイルスを感染させた者、医療関係者に暴力をふるった者などに対しても、死刑を上限とする厳しい刑が与えられる。
日本と韓国でも死刑は執行されている。日本の内閣府のデータによれば、世論調査では、死刑の存続について、国民の多くが死刑を支持していることが分かっている。世論調査では回答者の80%が死刑はやむ得ないものだとしており、死刑は廃止すべきだと答えた人の割合は10%にも満たなかった。
死刑が今も行われている国
アムネスティ・インターナショナルは、2019年には20カ国で657人の死刑が執行されたと発表している。これは2018年に較べて、5%減となり(2018年には少なくとも690件の死刑執行が確認されている)、アムネスティ・インターナショナルの統計では過去10年で最低となるものである。
中国は、以前とかわらず、世界でも死刑執行がもっとも多い国であるが、正確な執行数は国家機密とされ、公開されていないことから、完全には明らかにはなっていない。つまり世界で行われている657の死刑執行数の中にも、確認されていない中国での死刑の数は含まれていないのである。
日本における死刑執行の数は減少している。2008年以降もっとも多くの死刑が執行された2018年の15件から、2019年には3件にまで減少した。2019年には、8月2日に2人の日本人が死刑に処され、12月26日には殺人を犯した中国籍の男性が処刑された。
死刑執行の主な方法は絞首刑、銃殺、薬殺刑、斬首刑(サウジアラビアのみ)、電気椅子(米国のみ)である。多くのイスラム諸国では今でも投石刑が一般的で、ソマリア、イエメン、スーダン、イラン、サウジアラビアなどでも適用されることがある。
2020年にイランでは、反体制派ジャーナリストとレスリング選手の死刑が執行され、国際社会の大きな注目を集めた。イランのジャーナリスト、ルホラー・ザム氏は2017年に反政府デモの暴徒を扇動した罪で死刑を宣告され、12月12日にテヘランで絞首刑となった。ザム氏は、難民としてフランスに暮らし、「Amadnews」というテレグラム・チャンネルを運営し、フォロワーの数はおよそ140万人にのぼっていた。
フランスのメディアが伝えるところによれば、2019年に、ザム氏はイランに連行され、イラン革命防衛隊の特務機関によって身柄を拘束されていた。反体制派を代表するジャーナリストであるザム氏は、「イラン内外の安全に危険を晒した刑」、「聖なるイスラムを侮辱した刑」など、13件の罪を言い渡された。
もう1件、大きな波紋を呼んだのは、2020年に執行された、27歳のイランのレスリング選手、ナビド・アフカリ選手の死刑である。米国のトランプ大統領、総合格闘技団体「UFC」のダナ・ホワイト代表、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長らも、アフカリ選手の減刑を求めたが、イラン政府の決定を覆すことはできなかった。アフカリ選手は刑務所内で74回にわたって鞭打ちされた後、絞首刑に処された。アフカリ選手の家族は、イランの法律で定められているにもかかわらず、死刑執行の前に面会することも許されなかった。
このような事件が起こるたびに、死刑の存続をめぐる議論が巻き起こる。賛成派と反対派、双方の論拠はこの数十年の間、変わっていない。死刑存続支持派は、死刑は、犠牲者と遺族のために必要な刑罰であると考えている。ロシアのサラトフで、9歳の少女が強姦され、殺害されたときには、数千人の住民が、警察に対し、容疑者を人民裁判にかけるよう求め、世間では子供の殺害や小児性愛者に対する死刑の一時停止を解除するよう求める声が上がった。一方、死刑廃止を訴える人々は、何人も誰かの生命を奪うことはできないということ、また裁判の判断が誤っている可能性があることをその根拠に挙げている。おそらく、これは人類が答えを見つけるべき哲学的問題の1つであろう。