「日露関係の戦略的な重要性は増している」
神保氏は、菅首相は安倍首相の後継者ではあるが、今のところ、露日関係発展を予感させるような行動は何ら講じていないと指摘する。
しかし同時に、神保氏は、過去の露日交渉から重要な結論を導き出すことができると指摘する。その一つが、「日露関係の戦略的な重要性が増している」ということである。
神保氏:「過去数年の日露交渉から学んだことは何かということなんですけれども、やはり、平和条約の締結と領土の最終的な解決を目指そうとすればするほど、お互いゼロサム的な関係に入り込んでしまって、そこから先に進まないということがわかったということと、二つ目はそのようなゼロサム的な関係があるにも関わらず、大局的に見て日露関係の戦略的な重要性というのはむしろ増しているということなんだと思います」。
神保氏によれば、日露関係で重要な役割を担っているのが中国の動きだという。中国の存在が、日本にどのように捉えられており、ロシアにどのように捉えられているのかを理解することが、日露関係の発展を実現するのに、きわめて重要なことだという。
神保氏は、平和条約がなくても、日露関係には、協力を深化させることができる多くの分野があるとの確信を示している。そこで菅首相はおそらくこの方向性で進んでいくだろうと見ている。
神保氏:「従って、日露の平和条約交渉に踏み込まずとも、実は実務的に関係を発展させられる余地というのは日露には沢山あって、例えば、日本とロシアのこの『2+2』です。これは外務大臣と国防大臣の枠組みというのは枠組みとしてあるわけですし、さらに、安倍政権の時に進めた8項目の経済協力枠組みであったり、北方領土における共同経済活動もその中に含めていいと思いますけれども、経済的な相互の関係というものも発展させることができるということで言うと、その日露交渉を進めなくても日露関係を実務的に発展させるということが菅政権の下では進んでいくのではないかというのがあの私自身の見通しです」。
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「外交は国内政策から始まる」
菅政権の外交政策が積極化していく可能性と余地について、神保氏はスプートニクに対し、次のように述べている。
このように、神保氏は菅首相は安倍首相ほどの熱意を持って外交に取り組むことはないだろうとしつつも、良好な外交政策を進めていく可能性を否定することはできないと指摘する。
神保氏:「リチャード・ハースさんという外交評議会の会長の言葉ですけれども、彼はよく 『foreign policy begins at home』と言っています。 外交はまさに国内政策から始まります。だとすると、この国内政策をしっかりグリップできるその菅総理というのは実は外交においても優れた力を発揮するポテンシャルを秘めてるんじゃないかということは常に思い出していいことだと思います。確かに、安倍総理のように華やかなパフォーマンスはできないし、外交に対するこのパッションを常に感じているという方ではないかもしれませんけれども、それでも国内政策に対するグリップがしっかりしているからこそ外交のパフォーマンスを増すことができるかもしれません。こういうところは菅政権の外交の可能性として常に見ておいた方がいいのではないかというのが私が考えていることです」。