「原子力の将来は暗い」 2050年「カーボン・ニュートラル」と日本のエネルギー政策について専門家が語る

© AFP 2023 / HO / Maritime Self Defense Force via JIJI 福島第一原子力発電所
福島第一原子力発電所 - Sputnik 日本, 1920, 06.03.2021
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昨年の10月、菅首相は2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言したが、この目標はどの程度、実現可能なものなのだろうか?10年前に起きた福島第一原発事故の後、原子力に対する信頼が失われた今、日本政府はどのようなエネルギー政策をとっていくのだろうか?再生可能エネルギーは日本を救うものとなるのだろうか?政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員を務め、エネルギー政策議論の中心で活躍されている橘川武郎教授が、外国人記者を前にしたブリーフィング会見で、これらの疑問に答えた。

カーボンニュートラル2050年宣言 「発表は、ギリギリセーフのタイミング」

橘川教授によれば、昨年の菅首相のカーボンニュートラル2050年宣言以来、日本のエネルギーをめぐる景色は一変した。教授は、率直に言えば、これは日本にとって「ギリギリセーフのタイミング」だったと指摘する。

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橘川教授:「(何故かと言いますと)この一週間後にアメリカでバイデン政権が成立しました。もし、バイデン当選後に日本がカーボンニュートラルを言ったとしたら、ものすごく世界から遅れた感じがしたと思います。そういう意味で、滑り込みセーフのタイミングの発表でした。」

橘川教授は、原子力エネルギー政策と再生可能エネルギーに関して何か新たな動きがあったとはいえないとしながらも、カーボンニュートラルの分野における日本の動きにとって、深刻な影響を与えるいわば「触媒」のようなものがあると指摘する。

橘川教授:「唯一変わったのは、菅首相の演説の10月13日前に日本最大の火力発電会社であるJERAが2050年までにゼロエミッションを実現すると発表したことです。

火力発電なのになぜ二酸化炭素が出なくて済むのでしょうか。簡単に言うと、その秘密はアンモニアを使用することにあります。これがゲームチェンジャーとなって、日本ではカーボンニュートラルへ向けての新しい動きが始まったのです。」

2050年と聞くと、かなり遠い先の話のように感じられることから、計画は書類のまま終わる可能性もある。しかし、橘川教授は、「政府は非常にやる気になっている」との確信を示し、それを説明するにあたり次のような例を挙げている。

橘川教授:「現在経済産業省で新しいエネルギー基本計画をつくる審議会が行われていますが、そこには梶山大臣が毎回出席して我々の委員の発言を全部メモしています。今までの大臣ですと、1回目の最初の10分挨拶して帰ってしまうっていうのが通例でしたから、これは相当異例のことです。」

そこで、昨年末12月21日に政府は2050年の電源ミックスの参考値を発表した。この参考値によれば、2050年までに再生可能エネルギーは50-60%、水素アンモニア火力は10%、それ以外のカーボンフリー(CCUS=二酸化炭素の回収と利用付き)火力と原子力は30%-40%というものになる。また原子力のみの割合は10%以下になるものと予測される。

再エネは高いのか?自然災害にはどう対処するのか?狭い日本で実現できるのか?

再生可能エネルギーに関連して日本でもっともよく聞かれる神話は、非常にコストがかかるため、実現しても経済にダメージを与えるだけだというものである。しかし、現実はすべて真逆なのである。

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橘川教授:「日本では奇妙なことが起きています。日本では再生可能エネルギーは環境、つまり、二酸化炭素を削減するために導入されるものだというふうに思っています。しかし、日本以外の外国では多くの場合、再エネが急速に拡大しているのは値段が安いからです。 にもかかわらず、日本人の多くは再生エネルギーは高いと考えています。一種のガラパゴス化が起きていると思います。」

また再生可能エネルギーの主要な課題の一つは、太陽光発電と風力発電は天候などによって出力が大きく変動することだと考えられている。「スプートニク」は橘川教授に、一連の自然災害の問題を日本がどう対処していくのか質問した。

橘川教授:「変動に対する調整は、火力発電、ガス火力を使うことによって対応していくということで、基本的には解決することができると思います。

自然災害の問題は投資が十分に行われていない、過少投資の問題だと思いますので、投資次第の問題だと思います。現状、日本ではFIT制度の下で、太陽光に関して、きちんとしたビジネスプランを持ってない投資主体も含まれていることは事実です。

ただし、FITは20年で切れます。2030年前半に入りますと、 メガソーラーのリプレイスのタイミングになります。 その時には太陽光発電がもっと安い発電になっている可能性がありますので、有力な投資主体がメガソーラーのリニューアルのマーケットに入っ てくる可能性が強いです。彼らが登場すれば災害対策も進展すると思います。」

一方で、再生可能エネルギーは密度が低いため、大きな設備を設置するためには広い土地が必要である。このことが、国土の狭い日本にとって、再生可能エネルギー政策実現の大きな障壁となる可能性はないのだろうか。この問いに、橘川教授は、次のように答えている。

橘川教授:「これはとても良い質問です。太陽光、メガソーラーと陸上の風力にとっては、面積の制約が非常に大きいです。したがって、比較的その問題がない洋上風力とオンザルーフの太陽光に期待が高まります。洋上風力について、日本政府は2030年までに10ギガワット、2050年までには45ギガワット作ると言っています。一方、屋根の上の太陽光については、工場ですとかビルの上のものが鍵になります。工場の多くはコスト削減のために柱が細くて、今のままでは屋根の上に太陽光を乗せることができません。したがって工場の建屋を増強するか、あるいは太陽光パネルを軽量化することによってこの問題を解決することができると思います。」

「アンモニア発電が原子力発電に必須の引退宣言を突きつけた」

日本政府は原子力の使用を停止するつもりがないのではないかと思われるかもしれない。しかし、橘川教授は、再生エネルギーの主力電源化は必ずや原子力の副次電源化に繋がると説明する。

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橘川教授:「確かに昨年末のグリーン成長戦略で政府は原子力を成長分野の一つに位置付けました。新型炉の開発をすると言っています。しかし、ここで重要なことは現在の菅政権も前の安倍政権と変わらずに原子力を新しく作る、あるいは建て替える、リプレースをするということはしないと言っていることです。

原子力発電所の建設には長い時間がかかりますので、今、新増設ないし、リプレースを言わないともう50年には間に合いません 。現在33基ある原子炉を全て60年運転延長したとしても、50年に18基、60年に5基、69年には0基という形で減ってきます。 よって、50年代以降、原子力はリプレースが行われないならば、脱炭素のための選択肢にはなり得ないわけです。」

加えて、アンモニア発電というカーボンフリー火力のコンセプトが現れたことによって、原子力はかつての意味を失いつつある。

橘川教授:「原子力発電の最大のメリットはカーボンフリーのところですが、それが火力もカーボンフリーになってしまうと原子力発電のレーゾンデートル(存在理由)がなくなってしまうわけです。しかも、安全性の問題でも、それから出力調整能力の点でも原子力はカーボンフリーのガス火力よりは劣ります。そういう意味で、極端な言い方をすると、アンモニア発電が原子力発電に必須の引退宣言を突きつけたような形になっています。」

さらに橘川教授自身、日本は資源小国であることから、原子力という選択肢をそう簡単に捨てるべきではないと考えており、「べき論ではそうなんですが、実際問題では原子力の未来は暗いと思っています」と述べている。

同時に、橘川教授は、現在、行われているエネルギー政策でも、日本はヨーロッパに遅れをとっていると指摘している。

橘川教授:「日本のターゲットはブルー水素だと思います。ブルー水素というのはCCUSを使ってCO2フリーにして作る水素です。グリーン水素がベストであることは間違いありませんが、歴史的な経緯から言って、日本はまだヨーロッパの域に達していません。従って、ブルーに頼るのです。

水素・アンモニア・CCUS火力は、2050年に大体40%くらいになると思いますが、そのうちのグリーン水素由来は10%いかないと思います。」

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