「日本はこの15年で大きな発展を遂げたが、脅威はまだ残っている」 OECD(経済協力開発機構)事務総長、アンヘル・グリア氏に聞く

© AP Photo / Ludovic Marinアンヘル・グリア氏
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2021年、OECDは創設60周年を迎え、2006年から15年にわたって事務総長を務めてきたアンヘル・グリア氏が5月末で退任する。この間にグリア氏は日本ときわめて良好な関係を築き、15年でおよそ70回も日本を訪れた。外国人記者を前にブリーフィング会見を行ったグリア氏は、日本と世界経済の発展の展望について自らの見解を述べた。

「かつてのような状況には戻れない」

新型コロナウイルスの感染拡大は世界全土に甚大な損失を与えた。新型コロナの感染爆発はすでに300万人以上の生命を奪い、企業活動にも、家計にも計り知れない影響を及ぼした。しかし、これについてグリア氏は、「最悪な状況は過去のものになった」との確信を示している。

グリア氏:「最新の予測によれば、2021年世界経済の成長率は、2020年のマイナス3.4〜3.5%からプラス5.6%の成長に転じるとされています。世界の生産量は、2021年の第3四半期には、コロナ前の指標に戻るはずです」。

グリア事務総長はその上で、この予測は変異ウイルスが現れていることを背景に、ワクチン接種がどれくらいのスピードで浸透するかに大きく左右されます。世界の多くの国では、危機以前の状況にまで回復するには、多くの時間が必要となる可能性があるとしながらも、グリア氏は過去の過ちを繰り返さないようにすることが重要だと強調した。

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グリア氏:「いかなる回復にも、国家レベル、地域レベル、そして世界レベルで、それぞれしかるべき計画が必要です。一致団結した協力がより順調な形で行われれば、より良い結果が得られます。わたしたちは、柔軟性とレジリエンス力(回復性、弾性)を発揮しなければなりません。また孤立したり、排除されたりする人を生まないことが大切です。なぜなら2008年から2009年にかけて、わたしたちは多くの人々―特に女性や若者を回復の外に追いやったからです。今、もっとも弱い立場にいるのは、高い技能を持たない労働者や高齢者です。

わたしたちは、かつてと同じ状況に戻ることはできません。またかつてと同じ状況に戻りたいとも思いません。なぜならかつての状況により、現在のような状況がもたらされたからです。今後、さらに大きな出来事が起こるでしょう。ですから、「より良い前進を遂げる」というのは、今後の発展に向けた選択肢の一つではなく、前進していくための唯一の方法なのです」。

グリア氏は、この「より良い前進を遂げる」ことは、「グリーン成長」に移行することを意味すると考えている。グリア氏は日本やその他の国々が最近、2050年までにカーボンニュートラルを目指すという義務を果たしていくとの意向を示したことを歓迎するとしつつも、現在の努力では変化をもたらすには不十分であると強調している。

グリア氏:「パンデミックにより、この問題への注意が大きく逸らされてしまいました。しかしこれは当然のことです。なぜなら、今、パンデミックは唯一の、そして短期的な展望におけるもっとも緊急の課題だからです。しかし、わたしたちはこれ以外にも、地球保全という課題を抱えています。これもまた、わたしたちにとって唯一で非常に重要な、世代を超えた義務なのです。いくつかの国はこの問題の緊急性を認識し、現行の政策に、「グリーン」な回復措置を含めるようになってきています。しかし、「グリーン」と「非グリーン」の支出のバランスを見ると、それほど期待できる状況ではありません。最新の分析によれば、片方の手で何かを達成しつつ、もう片方の手でそれを手放しているような状況です」。

日本にとっての脅威

事務総長は、「日本は過去15年間で大きな進展を遂げたが、脅威はいまも残されている」と指摘している。グリア氏は特に重要な課題として、国民の高齢化問題を挙げた。

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グリア氏:「日本は老年人口指数では、OECDのすべての加盟国の中でもっとも高い数値となっています。寿命が100歳に達する我々の時代において、日本は変化し、より柔軟な雇用制度を作る必要があります。年齢ではなく、労働生産性に基づいた雇用制度です。そうすることによって、よりよい形で、人的資本を活用することができるのです」。

またグリア氏は、「新型コロナの感染拡大によって、もっとも大きな打撃を受けたのは女性だ」と考えている。

グリア氏:「日本では労働力不足により、女性の雇用が大きく増加しました。しかし、依然として、指導的役職に就いている女性の数は十分ではありません。女性は今も、就職に際して、障壁に直面しています。女性は家事という大きな負担を強いられているからです。

仕事と私生活のバランスを保つこと、また差別撤廃に向けた措置の整備することによって、コロナ後の時代において、女性がより意義のある役割を演じることができるようになるでしょう」。

そして3つ目にグリア氏は、日本政府が経済のグリーン化に向けた野望的な目標を掲げ、重要な課題である、完全なデジタルトランスフォーメーションに向けた準備を進めている点を指摘している。

グリア氏:「日本にはすでに、デジタルトランスフォーメーションの実現に必要な、かなり良質なインフラが整っていることを考慮すれば、民間人や企業によるデジタル技術の利用には大きなポテンシャルがあります。デジタルトランスフォーメーションによる経済利益を増やすため、日本はビジネスのダイナミズムをより良いものにし、あらゆる規模の企業がより大きな革新性と生産性を達成し、さらにこれがもっと重要なことですが―新たな雇用を生み出すために、デジタル技術を使用する能力を高めることができるような政策を講じるよう助言されています」。

そして4つ目に、事務総長は、2020年、世界の貿易関係は、新型コロナの感染による状況を克服する上で大きな意味を持つものとなったと指摘した。

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グリア氏:「日本は環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)、地域的な包括的経済連携協定 (RCEP)のような、地域の貿易協定の締結におけるリーダー的存在の国の一つです。また日本はG20内のデジタル貿易の共通のルール作りに参加することで、重要な役割を担っています。

わたしたちの分析では、CPTPPだけでも、中期的に見て、労働者の実質賃金をほぼ500ドル(およそ54,000円)増加させることができます。加えて、より多くの国が、貿易費用を抑えるため努力をしています。こうした努力がより包括的なものになればなるほど、より大きな利益を得ることになるでしょう」。

また同時に事務総長は、様々な脅威が残っているにもかかわらず、「日本経済の今後数年間の展望は、全体として肯定的なものだ」と述べている。

グリア氏:「最新の予測でば、2021年の日本の経済成長率はおそよ2.7%となっています。現在、主な政治的な脅威は全体として変わっていません。生産性の伸びの鈍化、長期的な金融安定性の維持といったすべては、大きく注視してしていくべき問題です」。

日本はオリンピックを開催するべきか?

ブリーフィング会見で寄せられたこのような質問に、グリア氏は次のように答えている。

グリア氏:「1968年にメキシコオリンピックが開催されましたが、そのときも開幕の数日前に、オリンピックの開催が危ぶまれるようないくつかの事件が起こりました。それでもオリンピックは開催され、しかも大会は成功裏に終わりました。東京について言えば、国際オリンピック委員会と日本政府による協議により、考えられる最高の結果がもたらされると確信しています。国際オリンピック委員会と日本政府の両方が、大会を開催するとの決定を下したなら、すでに合意された必要な条件を考慮に入れた上で、最高のオリンピックが開かれることになると信じています」。

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