国民投票法改正案は2018年6月に提出されたが、野党からの強行な反発を受け、採決されないままとなった。
日本の大部分の国民は、過去数十年の間、憲法第9条を支持してきただけでなく、平和主義を貫き、軍国主義を非難する象徴として、誇りを抱いてきた。世論調査によれば、現在、有権者らは総じてなんらかの形で憲法を見直す必要性があることを認めるとしながらも、第9条の改正に対し慎重な態度を取っている。毎日新聞と社会調査研究センターが実施した世論調査によれば、憲法改正については、賛成が48%、反対が31%だった。一方、第9条を改正して自衛隊の存在を明記することについては、賛成が51%、反対が30%だった。
改憲必要派は、1947年に施行された憲法に盛り込まれた、陸海空軍その他の戦力の不保持や戦争の放棄といった規定が、今の現実に即さなくなっているとの根拠に立っている。これに関連し、極東研究所日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は、しかし現在の自衛隊の規模と質は、世界の主要国の軍事力に並ぶものと見なされていると指摘する。
「軍事アナリストの評価によれば、日本は、世界軍事力ランキングで常に10位以内に入っています。さらに近年、自衛隊には宇宙作戦隊、サイバー防衛隊が新編されていますし、日本の防衛費は、9年連続で増加し、2021年は5兆2,470億円(およそ510億ドル)に上っています。2019年、日本の防衛費はGDPの1%にとどまっているものの世界8位に入っています」。
一方、歴史研究家のアナトーリー・コシキン氏は、日本の軍事大国への回帰には日本の大きな資本が関係していると指摘する。
憲法改正による防衛ドクトリンの見直しを最初に提言したのは、安倍晋三前首相である。安倍首相に比べて支持率が低迷する菅首相は、前首相がなし得なかったことを成し遂げることはできるのだろうか。この問いに対し、キスタノフ氏は次のように述べている。
「日本は確かに憲法改正に一歩近づきました。しかしやはりその実現はというと、まだ遠い先のことであり続けています。国民投票を実施するのは容易になりましたが、だからと言って、国民投票で改憲の決定が絶対に下されるというわけではありません。しかしながら、国民投票法改正案が可決される可能性が出てきたという事実は非常に重要です。これは自衛隊を合憲化する問題が着実に進展していることを証明するものだからです。とはいえ、社会も政府も、―これは世界全体で言えることですが、今はそれどころではありません。現在もっとも重要な議題は、日本政府が苦戦を強いられている新型コロナウイルスとの戦い、経済問題、オリンピック問題、つまり開催するのかどうするのかという問題です。複数の世論調査を見ていると、ほぼ6割の日本人が開催の中止を求めています」。
NHKのデータによれば、現在の菅政権の支持率は2020年9月以来最低となる35%にまでに落ち込んでいる。
コシキン氏は、菅氏が首相の座から退くことになった場合どうなるのかについて、「次の後継者もまた同様の政策を取るだろうことは疑いようもありません。しかも、次期首相候補と目されている石破茂氏、河野太郎氏はいずれもかつての防衛大臣なのです」。と指摘している。