新たな計画は、新設する海底トンネルを通して、約1キロの沖合で処理水を放出するというもの。現在、福島第一原発の敷地内にあるタンクで保管されている処理水は、すでに125万トンを超えている。事故で崩壊した原子炉の燃料デブリを冷却するためにかけられた水には、放射性物質に汚染された雨水や地下水が流れ込んでいる。汚染水は浄化処理によりストロンチウムとセシウムを含むほとんどの放射性物質は取り除かれたが、トリチウムは除去することができないままとなっている。しかし、残ったトリチウムは濃度が低ければ人体に影響はないとされていることから、すでに浄化処理された水を大量の海水で薄め、トリチウムの濃度を1,500ベクレル/リットル以下のレベルに下げることが計画されている。東京電力は、海洋放出の際に、トリチウムの濃度はWHO(世界保健機関)が飲料水水質ガイドラインに示されているガイダンスレベルに合致するとの確信を示している。また東京電力は、原発から半径2キロ、20キロ、また原発近くの沖合での周辺海域の放射性物質のモニタリングを強化するとしている。
海底トンネル敷設のプロジェクトがどれほど斬新でどれほど目新しいものなのか、「スプートニク」がロシアのインターネットサイト「アトムインフォ」の編集長、アレクサンドル・ウヴァロフ氏にお話を伺った。
「トンネルの敷設自体は、特に目新しいものではありません。多くの国では、原子力発電所は海からそう遠くないところに建てられており、トンネルは、発電所に必要な水を集めるために使われています。しかし、歴史上これまでになかった福島原発事故において、その事故処理を行うために講じられているすべての決定に目新しさがあります。つまり、技術的なやり方はけして目新しいものではないものの、福島では主に、その技術が地元の海産物の風評被害を防ぐことを目的に行われているというのが少し珍しいものに思います。2021年4月に判断が下された、トリチウム以外の放射性物質が取り除かれた処理水を直接、海洋放出するというやり方でも害はありません。トンネルの整備には時間もかかり、資金もかかります。もちろん、それは日本のお金なのですが」。
「スプートニク」:トンネルを用いた放出の安全性については問題はないのか?
「スプートニク」:ではなぜ日本内外の多くの人々や団体は、海洋放出に反対しているのか?
ウヴァロフ氏:このようなニュースは、専門海外の人には当然、不安を呼び起こすものです。人々は政府の公式発表というものをあまり信用していません。また近隣諸国の不満は、言ってみれば、日本が「自国のゴミ」を共通の遺産(海洋)に投棄するということに起因しています。かつて、20世紀には、こうしたことにあまり注意は払われませんでした。英国は自国の原発から出た放射能汚染水を海洋放出していましたが、そのときは水で薄めるなどという考えすら特にはありませんでした。しかし時代は変わりました。環境問題は特別な知識のない人を含めたすべての人を懸念させるようになりました。とりわけ人々は、原子力に関するあらゆることに非常に敏感になっています」。
地元の漁業者たちの懸念を理解し、日本政府は最近、もし処理水の海洋放出によって、販売減少や価格下落があれば、政府が国費で水産物を買い取ると発表した。8月19日、IAEAと日本は計画されている汚染水の海洋放出の安全性に関するモニタリングの開始について合意を交わした。これを目的に、IAEA事務局長が9月に日本を訪問することになっている。
日本政府は、2021年4月、処理水の海洋放出を承認した。準備作業にはおよそ2年かかると見られているが、海底トンネルの敷設プロジェクトにより、この計画が変更される可能性もある。
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