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老化には「再起動」 若返りの新たなアプローチが見つかる
老化には「再起動」 若返りの新たなアプローチが見つかる
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... 2023年1月25日, Sputnik 日本
2023-01-25T11:03+0900
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これまでの研究では、ミトコンドリアDNA内で変異が蓄積していくと老化すると考えられていた。しかし、突然変異の数は、生物の一般的な老化とは相関関係がないことが、その後の研究で判明した。また、テロメア(染色体の末端を保護する構造物で、細胞分裂のたびに短くなる)の長さを加齢の指標とする仮説があったが、これも不正確な考え方であることが判明した。近年、生物学的年齢を推定するための新しいアプローチがいくつか提案されている。最も有名なのはエピジェネティック老化時計。2013年に米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のスティーブ・ホーヴァス教授がこの概念を構想した。ホーヴァス氏によると、ゲノムを研究していても、長寿に直接影響する遺伝子は一つも見つかっていないという。DNAの構造は一定だが、個々の遺伝子の活性が変化し、それがタンパク質の合成に反映される。その活性を変える仕組みはエピジェネティックと呼ばれている。同氏は、メチル基が付加したDNAが年齢とともに変化するところに着目し、これを「タグ」として、どの細胞が若いのか、それとも老化しているのかを観察した。若々しさを取り戻す胚性幹細胞が、特定の機能を担う成熟した体細胞に変化し、その後、老化して死滅するメカニズムが生物学者によって詳細に研究されてきた。それを逆手にとって、若返りを行うというのが研究者の夢だった。2006年、日本の研究者である山中伸弥氏は、研究室での実験で初めてこれを実現した。後に山中カクテル(山中因子)と呼ばれることになる4つのタンパク質(Oct4、c-Myc、Sox2、Klf4)を使って、分化した体細胞(マウス線維芽細胞)を多能性幹細胞に戻すことに成功した。さらに両者は、その後の研究で、体細胞をどのような細胞にも分化できるようにする(初期化)に成功した。その研究が高く評価され、2012年、山中氏は英国の生物学者ジョン・ガードン氏と共にノーベル生理学・医学賞を受賞した。プログラムを再起動DNAの切断が頻繁に起こると、絶え間ない「修復」によってエピジェネティックな変化が蓄積されることになり、最終的には細胞のアイデンティティが失われてしまう。この考え方は、「加齢の情報理論」と呼ばれている。そこで米ハーバード大学のデイヴィット・シンクレア教授率いる研究チームは、コンピュータのプログラムを再起動させるとエラーの蓄積が解消されるように、失われたエピジェネティックな「命令」を回復させれば、細胞に若々しさを取り戻せるのではないかと考えた。研究者らは、実験で若いマウスのDNAを切断させ、エピゲノムの老化をシミュレートした。このような「老化」がわずか数週間続いただけで、マウスの毛は白髪になり、視力や記憶力は低下し、活動量は減り、体重も減少した。エピジェネティック老化時計を使ってみたところ、このマウスは通常の約1.5倍の速さで老化することがわかった。そして、研究者らは山中因子を用いて、動物の細胞のアイデンティティを担う遺伝子を活性化させた。すると5週間後、組織と分子レベルで若返りの兆候が顕著に見られた。シンクレア氏は、「もし、老化の原因が突然変異の蓄積だとしたら、若さを取り戻すことは不可能だ。しかし、このプロセスを逆行させることができるというデモンストレーションは、システムが無傷であること、どこかにバックアップがあること、そして『ソフトウェア』を再起動することができることを示している」と説明している。研究チームは、この方法が幹細胞アプローチとは根本的に異なることを指摘している。つまり、細胞を多能性状態に戻すのではなく、細胞に保存されているエピジェネティック情報を消去するのではなく、更新するだけであるという。実用化への道この若返りプロセスがヒトにも通用するかどうかは、まだ研究者らにも分かっていない。現在、このアプローチは霊長類でテストされているほか、研究室では神経細胞、線維芽細胞、皮膚細胞などのヒトの細胞でも実験が行われている。研究者らによると、全身に影響を与えず、局所的に遺伝子治療を行うことができる眼科分野での実用化が最も期待されているという。2020年にはマウスの視力回復実験に成功し、現在は老齢で失明したサルを対象に山中カクテルを使った実験が行われている。研究が成功し、システムの安全性が証明されれば、米国食品医薬品局(FDA)にヒトでの臨床試験の許可を申請する予定だ。将来的には、ハーバード大学の研究チームの発見が、エピジェネティック治療という新しい医学の分野を生み出すかもしれない。身体の特定の機能システムを若返らせることで、加齢に伴う多くの疾患を治療できる可能性がある。研究者らは若返りに関して、非常に慎重な姿勢を示している。加齢はさまざまな要素が絡み合う複雑なプロセスであるため、細胞を再起動するだけで、体全体の若さを取り戻せるかどうかは、まだ分からないと指摘している。関連ニュース
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老化には「再起動」 若返りの新たなアプローチが見つかる
世界の研究者らは長年、老化を遅らせ、若さを取り戻す方法を探し求めて研究に励んでいる。これまでに多くの研究者らがこのテーマに取り組んできたが、米ハーバード大学の研究チームが最近、若返りのアプローチ方法を発見した。それは、遺伝子の働きの度合いを制御するエピゲノムを「再起動」させることで若々しさを取り戻すことができるというもの。この研究成果は、若さを取り戻すことや加齢に伴う多くの疾患の治療法への道を開くことにつながる可能性がある。
これまでの研究では、ミトコンドリアDNA内で変異が蓄積していくと老化すると考えられていた。しかし、突然変異の数は、生物の一般的な老化とは相関関係がないことが、その後の研究で判明した。また、テロメア(染色体の末端を保護する構造物で、細胞分裂のたびに短くなる)の長さを加齢の指標とする仮説があったが、これも不正確な考え方であることが判明した。
近年、生物学的年齢を推定するための新しいアプローチがいくつか提案されている。最も有名なのはエピジェネティック老化時計。2013年に米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のスティーブ・ホーヴァス教授がこの概念を構想した。
ホーヴァス氏によると、ゲノムを研究していても、長寿に直接影響する遺伝子は一つも見つかっていないという。DNAの構造は一定だが、個々の遺伝子の活性が変化し、それがタンパク質の合成に反映される。その活性を変える仕組みはエピジェネティックと呼ばれている。同氏は、メチル基が付加したDNAが年齢とともに変化するところに着目し、これを「タグ」として、どの細胞が若いのか、それとも老化しているのかを観察した。
胚性幹細胞が、特定の機能を担う成熟した体細胞に変化し、その後、老化して死滅するメカニズムが生物学者によって詳細に研究されてきた。それを逆手にとって、若返りを行うというのが研究者の夢だった。
2006年、日本の研究者である山中伸弥氏は、研究室での実験で初めてこれを実現した。後に山中カクテル(山中因子)と呼ばれることになる4つのタンパク質(Oct4、c-Myc、Sox2、Klf4)を使って、分化した体細胞(マウス線維芽細胞)を多能性幹細胞に戻すことに成功した。さらに両者は、その後の研究で、体細胞をどのような細胞にも分化できるようにする(初期化)に成功した。その研究が高く評価され、2012年、山中氏は英国の生物学者ジョン・ガードン氏と共にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
DNAの切断が頻繁に起こると、絶え間ない「修復」によってエピジェネティックな変化が蓄積されることになり、最終的には細胞のアイデンティティが失われてしまう。この考え方は、「加齢の情報理論」と呼ばれている。
そこで米ハーバード大学のデイヴィット・シンクレア教授率いる研究チームは、コンピュータのプログラムを再起動させるとエラーの蓄積が解消されるように、失われたエピジェネティックな
「命令」を回復させれば、細胞に若々しさを取り戻せるのではないかと考えた。
研究者らは、実験で若いマウスのDNAを切断させ、エピゲノムの老化をシミュレートした。このような「老化」がわずか数週間続いただけで、マウスの毛は白髪になり、視力や記憶力は低下し、活動量は減り、体重も減少した。エピジェネティック老化時計を使ってみたところ、このマウスは通常の約1.5倍の速さで老化することがわかった。
そして、研究者らは山中因子を用いて、動物の細胞のアイデンティティを担う遺伝子を活性化させた。すると5週間後、組織と分子レベルで若返りの兆候が顕著に見られた。
シンクレア氏は、「もし、老化の原因が突然変異の蓄積だとしたら、若さを取り戻すことは不可能だ。しかし、このプロセスを逆行させることができるというデモンストレーションは、システムが無傷であること、どこかにバックアップがあること、そして『ソフトウェア』を再起動することができることを示している」と説明している。
研究チームは、この方法が幹細胞アプローチとは根本的に異なることを指摘している。つまり、細胞を多能性状態に戻すのではなく、細胞に保存されているエピジェネティック情報を消去するのではなく、更新するだけであるという。
この若返りプロセスがヒトにも通用するかどうかは、まだ研究者らにも分かっていない。現在、このアプローチは霊長類でテストされているほか、研究室では神経細胞、線維芽細胞、皮膚細胞などのヒトの細胞でも実験が行われている。
研究者らによると、全身に影響を与えず、局所的に遺伝子治療を行うことができる眼科分野での実用化が最も期待されているという。2020年にはマウスの
視力回復実験に成功し、現在は老齢で失明したサルを対象に山中カクテルを使った実験が行われている。研究が成功し、システムの安全性が証明されれば、米国食品医薬品局(FDA)にヒトでの臨床試験の許可を申請する予定だ。
将来的には、ハーバード大学の研究チームの発見が、エピジェネティック治療という新しい医学の分野を生み出すかもしれない。身体の特定の機能システムを若返らせることで、加齢に伴う多くの疾患を治療できる可能性がある。
研究者らは若返りに関して、非常に慎重な姿勢を示している。加齢はさまざまな要素が絡み合う複雑なプロセスであるため、細胞を再起動するだけで、体全体の若さを取り戻せるかどうかは、まだ分からないと指摘している。