【特集】極寒のロシアに住むパンダ 飼育員が語るその生態

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モスクワ動物園のパンダ - Sputnik 日本, 1920, 12.02.2023
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日本では2月21日、東京・上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」(メス・5歳)が、中国に返還される。現在は出発前の動物検疫のために室内展示のみとなっており、抽選制で毎日最大2600人のパンダファンが最後に一目見ようと訪れている。一方、日本ではあまり知られていないが、ロシアの首都・モスクワ中心部にある動物園にも2頭のパンダがいる。冬は氷点下30度にもなる極寒のロシアで、パンダたちをどのように飼育しているのか、モスクワ動物園のパンダ専門家にスプートニクが取材した。

モスクワに住むパンダ

モスクワ動物園には「ジュイ(如意、オス、6歳)」と「ディンディン(丁丁、メス、5歳)」の2頭のパンダがいる。2019年春に中国からやって来た。同動物園の中国動物課長でパンダの飼育を手がけるイリーナ・オフチニコワさんはスプートニクのインタビューに対し、パンダ飼育のための入念な準備や万全な飼育態勢について語ってくれた。
スプートニク:ジュイとディンディンはどうやって来園しましたか?
イリーナさん:パンダ研究の協定によって中国・四川省からやってきました。来園前にはパンダを迎え入れるために飼育施設を改装し、中国の専門家による点検も受けました。パンダの渡航は順調で、チャーター機のなかでずっと竹を食べていました。
スプートニク:パンダの引っ越し作業には参加されましたか?
イリーナさん:ここでパンダに携わる飼育員は予め中国で研修を受けました。ジュイとディンディンに初めて会ったのも中国でした。2頭がモスクワに来るのと同時に、中国の専門家2人も来てくれました。1人は獣医、もう1人は飼育員で、パンダに環境に慣れさせたり、正しく餌を与え世話をするためのサポートをしてくれました。

寒さに強く雪が大好き

日本でパンダに会える上野動物園(東京)、アドベンチャーワールド(和歌山)、王子動物園(兵庫)では冬でも比較的暖かい。一方モスクワでは最高気温が氷点下であることは珍しくなく、マイナス20~30度まで冷え込むこともある。この一見過酷にも思える環境下でパンダたちをどう飼育しているのだろうか。
イリーナさんによると、意外にもパンダは寒さに強くモスクワの冬と雪が大好きだという。

「私達の考えでは、モスクワの冬はパンダたちにとって最高です。パンダは雪が大好きです。雪が積もるとパンダは活発になり、遊んだり、いつもとは全く違う様子になります」

スプートニク:モスクワの冬は気温がマイナス30度まで下がることがありますが、パンダたちは大丈夫なのですか?
イリーナさん:(編注:マイナス30度まで下がるような)極寒の日はそう多くはありません。今年も1週間少しだけでした。パンダはマイナス20度以下になると、外には出ません。ですが、屋内の飼育施設もしっかりしています。湿度は70パーセントで一定に保たれていて、エアコンもあります。パンダたちは極寒の日は屋内にいますが、マイナス20度以上の日は外に出て、外で食事を摂るのです。パンダたちはモスクワの冬が大好きです。
スプートニク:野生のパンダは標高の高い竹林に生息しているので、寒さには強くむしろ暑さに弱いと聞いたのですが本当ですか?
イリーナさん:その通りです。パンダは暑い季節になると標高の高いところに登り、寒い時期には中腹に下るのです。

厳格な食事管理

スプートニク:パンダは毎日どれくらいの餌を食べるのですか?
イリーナさん:毎日35~40キロの竹を与えています。9種類の竹があり、選ぶことができます。今日は葉を多めに、別の日は固い茎といった具合に気まぐれです。ちょうど今ディンディンがたけのこを食べていますが、これは主食であってごちそうでもあります。竹の葉とたけのこがあれば、パンダは必ず先にたけのこを食べます。
スプートニク:竹以外も食べるのですか?
イリーナさん:99パーセントの食事は竹です。いつもたくさんあって選択肢も多いです。リンゴやニンジン、サツマイモのほか、パンダのために特別に焼くケーキなども一定量与えていて、トレーニングとしても利用しています。ですが、パンダが一番最初に手に取るこうしたごちそうは、食べ過ぎると肥満に繋がる恐れがあります。だから、パンダケーキや穀物を含むもの、リンゴ、ニンジンなどは本当に限られた量しか与えません。
スプートニク:竹はどこから持ってくるのですか?
イリーナさん:オランダから輸入しています。オランダでは竹を栽培しているところがあって、欧州の動物園のパンダはそこから来る竹を食べています。9種類の竹は3ヶ月に1度運ばれてきます。動物園には湿度や気温が一定に保たれた冷蔵庫があり、パンダたちはいつも新鮮な竹を食べています。たけのこは故郷である中国・四川省から輸入しています。
パンダの「竹食」は600万年前から、研究で明らかに - Sputnik 日本, 1920, 05.07.2022
IT・科学
パンダの「竹食」は600万年前から、研究で明らかに

ロシアでも大人気のパンダ

東京では混雑時は赤ちゃんパンダのために2、3時間列に並び、数分しか見られないといわれるほどの人気だが、ロシアではどうなのだろうか。
スプートニク:ロシアでのパンダの人気はどうですか?
イリーナさん:皆パンダが大好きです。パンダが好きじゃない人なんていませんよ。まず第一に、見た目がすごく可愛い。そして、ユニークでもあります。珍しい種であり、仕草も特有です。だから、来園者は皆パンダを見に行きます。園内では来園者に「パンダはどこですか」とよく聞かれます。来園者が多い日は人だかりができていて、飼育員が外に出ると質問攻めにあいます。皆ただ「パンダ」と呼ぶのではなく、名前を知っていて、「ジュイの調子はどう?今日の体重は何キロ?」といった風に聞いてくるのです。
モスクワ動物園ではオンラインでパンダの様子を中継することもあるといい、いつも観察して細かな異変に気づくパンダ愛好家もいるという。

「私達にメールを送ってくれるパンダファンもいます。オンラインの中継映像で観察している愛好家のなかには、パンダがいつもと違う様子をみせると、『今日のジュイは少し元気がないように見えた』『ディンディンはいつもと違う仕草をみせている』と連絡してくれる人もいます」

日本より長いロシアのパンダ史

日本のパンダ飼育史は1972年、日中国交正常化を機に「カンカン」「ランラン」が上野動物園にやって来たのが始まりだ。ロシアではそれより15年も前の1957年、十月革命40周年を記念して中国から当時のソ連に送られた「ピンピン」がモスクワ動物園にやって来たのが最初だという。
スプートニク:ロシアに初めてパンダが来たのはいつですか?
イリーナさん:初めてのパンダは1957年に来ました。その後も何頭か来ました。60年代は動物園にパンダが現れ始めたころで、今とは飼育基準も大きく異なっていました。その時はプレゼントとして送られました。現在は協定に基づいており、飼育も厳格に管理されています。食事の量は厳しく決まっていて、定期的に中国へ飼育状況についての報告書も送っています。定期的に血液検査をしたりして、健康管理を徹底しています。そして、中国の専門家と検査結果を共有して、助言を受けています。なにか問題が起きれば相談して、正しく対応できているか確認してもらっています。
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オスのパンダ・ジュイ(如意)

オスのパンダ・ジュイ(如意) - Sputnik 日本
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オスのパンダ・ジュイ(如意)

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メスのパンダ・ディンディン(丁丁)

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メスのパンダ・ディンディン(丁丁)

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普段は別々で暮らす2頭

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普段は別々で暮らす2頭

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パンダはロシアでも人気者

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パンダはロシアでも人気者

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パンダはロシアでも人気者

将来有望なカップル

スプートニク:パンダの発情期は1年に1回だけというのは本当ですか?
イリーナさん:その通りで、この点においてパンダはとてもユニークです。繁殖期は1年に1回、春だけです。その時期以外、自然界でオスがメスの縄張りに入らず、メスもオスの縄張りに入らないように、2頭は別々に暮らしています。1年に1回だけ、交尾のために文字通り1~2日だけ会うのです。
ジュイとディンディンの将来のカップリングの可能性についてイリーナさんは次のように語ってくれた。

「ジュイは6歳、ディンディンは5歳とまだ若いですから、これからですね。将来有望なカップルです。繁殖のため遺伝的に特別に選ばれた組み合わせですし、我々も期待してそれを目指しています。2頭の仕草をいつも注意深く観察していますし、特のこの春は交尾の兆候をみせるか注目します」

取材に訪れた日の気温はマイナス1度ほどで、モスクワの冬としては暖かかったが、平日の昼間ということもあり人混みに立つことなく愛らしいパンダの食事風景を見ることができた。赤の広場から約2.5キロと都心にありながら、長い列に並ばず時間を気にせずにパンダを楽しめるのもモスクワ動物園の魅力の一つだ。パンダを思う存分じっくり観察したいという方は是非訪れてみてほしい。
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