【視点】「ぽっかり開いた穴」:米防空システムの完全な失敗を見せつけた偵察気球

© Screenshot米国に現れた気球
米国に現れた気球 - Sputnik 日本, 1920, 25.02.2023
サイン
静岡県浜松の海岸で、幅約1.5メートルの謎の球体が発見された。現在、この球体の写真は、自衛隊や海上保安庁の専門家によって調査されている。一方、日本はこれより前、2019年から2021年にかけて、中国が日本上空で3つの偵察用気球を放球した可能性があるとの見方を明らかにしていた。この偵察用機器がどれほど深刻なものなのか、こうした気球との戦いがいかに困難であるのかについて、「スプートニク」が軍事専門家にお話を伺った。
これらの気球は国の防衛において、大きな穴となるのだろうか?何より、日本に対し、信頼できる核の傘を約束している米国の防空においてはどうだろうか?とりわけ米国上空を飛行していた偵察気球に関する1週間にわたるミステリー事件が起きた後、多くの国がこの問題について疑問を呈している。

長い歴史を持つスパイ?

軍事目的で使用される気球というものは、第一次世界大戦の時代に現れたものである。退役大佐で、防空部隊博物館の館長を務めるユーリ・クヌトフ氏は、他でもない、この気球のおかげで、対空防衛というものが生まれ、対空砲が開発されたと指摘する。

「第二次世界大戦時には、日本は弾薬は米国領に届けるため、気球を積極的に使用しました。また戦後には、今度は米国が偵察を目的に、気球を広く使用しました。

 CIAは1950年代、『モビー・ディック計画』という作戦を実施し、関心の高いソ連の施設の写真撮影を行うため、ソ連領空に1000の無人の気球を飛ばしました。この『モビー・ディック計画』の真の目的を隠すため、気球は気象観測のために用いられていると発表されました。しかし、トルコの米軍基地からだけでも、500以上の気球が放たれ、後に、フィンランドとスコットランド領内からも放球されました。

 もちろん、その大部分は撃墜されましたが、いくつかの気球は上空を飛行しました。飛行は主に、高度(25〜35キロ)では気流はほとんど変わらない大気の特徴を利用することでこれは成功しました」

つまり、これにより、気球は、防空システムに捉えられることもなく、また攻撃されることもない一定の高度を移動することができるのである。

どんな行動にも反撃の手段はある

クヌトフ氏は、米国はかなり以前から偵察目的で気球を使っており、ロシアはこれに対抗する必要に迫られており、現在もこれにうまく対処していると指摘する。

「大気の中度、高度を飛行する気球のような目標物をより正確に撃墜するために、ロシアでは高高度防空ミサイルシステムS–75が開発されました。後には、高度40キロ以上でも目標物に命中させられるS–200が開発されています。

 またS−300、S–400も、同様の課題を順調に遂行しています。さらに、偵察気球のような脅威に対抗するためには、飛行高度で世界的な記録をいくつも保持するミグ31、ミグ25も用いられています」

一方で、問題もあるとクヌトフ氏は指摘する。

「問題は、気球を作る費用は1000ドルほどですが、これを撃墜するミサイルは数万ドルの費用がかかっているということです。ですから、上空を飛行している気球が100%、偵察用であると特定できた場合は、必ず撃墜しますが、確信が持てないときには、そのままにしておくこともあります」

空に浮かぶ気球 - Sputnik 日本, 1920, 14.02.2023
【図説】上空に相次ぐ気球 「未確認物体」が観測された国は?

米国の防空システムの穴を見つけた中国の気球

一方でクヌトフ氏は、米国上空を飛行していた中国の気球については、特別な注意を払う必要があると指摘する。その理由は、米国の対空ミサイルシステムは高度25〜30キロの目標物をまったく攻撃できないためだという。

「米国の防空システムパトリオットは、25キロまでの目標物を対象に開発されており、その他のシステムは80キロ以上でしか機能しないのです。戦闘機は15キロ、5世代ジェット戦闘機ラプターは最大20キロまでしか到達しません。つまり、米国には防空システムに穴があるわけです。おそらく、中国はこのことを知っていたのでしょう」

また北朝鮮もこれを知っており、他でもない30〜40キロの範囲で有効な弾道ミサイルの開発をしているのも偶然ではない。
クヌトフ氏は、もしかすると、中国はこのことを考慮に入れた上で、ソーラーパネルとさまざまな装備を搭載した自国の大きな気球を飛ばした可能性もあると述べている。

「しかも米国は戦略空軍基地と管制センターの上空を漂流しているときにこれを撃墜しました。もし、この近くに中国のリピーター衛星があったとすれば、事実上、この気球が収集したすべての情報が地上の通信基地にすでに送られていたでしょう。そしてそれは米国の防空システムの研究に使われるのです」

つまり、今回の気球をめぐる一件は、米国の防空システムには実際、非常に深刻な大きな穴があるということをはっきりと示したのである。そしてその穴は今も塞がれていないとクヌトフ氏は締めくくっている。
一方で、米国はときに創意工夫を見せることがあるとクヌトフ氏は指摘する。

注意を逸らすための行動

1987年、西ドイツのパイロット、マチアス・ルストがソ連の領空を侵犯し、セリゲル湖の上空を飛行した。そのとき、米国はソ連の防空システムを撹乱するために、この地域に金属製の球体を放ったとクヌトフ氏は語る。

「この球体は、湖の上空にどこから聞こえてくるのかわからないヘリコプターの音に似た騒音を生み出し、ロシアの防空システムを撹乱しました。スクリーンで見ると、球体はまさにヘリコプターのように見えたのです。

 この金属製の球体の貴重な特徴は、球体の外側は無線を透過する素材で作られていた点です。ですから、探知機には映らず、映ったのは球体が運んでいた搭載物だけだったのです。つまり、どんなレーダーでもこの目標物を見つけることができるというわけではないということです」

中国の偵察気球の動向 - Sputnik 日本, 1920, 06.02.2023
【視点】中国の偵察気球が米国上空を通過

日本で目撃された不審な気球

最近、日本で起きたのも、同様のことなのか?
一方、最近、日本の静岡県で発見された不審な気球について言えば、おそらくこれは偵察用のものではないと思われる。クヌトフ氏は、これについて、また、1980年代にロシアのセリゲル湖上空に放たれたような、防空システムを撹乱するものでもないだろうとの見方を明らかにし、おそらくまったく普通の気球だろうと指摘している。

「日本で発見されたのは、保護用ネットを固定しているブイである可能性が高いでしょう。基地のある特定の水域への潜水艦の侵入を防ぐためのものだと思われます」

しかし、なぜ今、この偵察気球の問題がこれほど大きく取り沙汰されるようになったのだろうか?

メディアによって広まった世界的屈辱

答えは簡単だとクヌトフ氏は言う。

「米国の防空システムは、普通の旅客機が気づいていた中国を気球を、文字通り、すっかり見過ごしたのです。それは大騒ぎです。これを受けて米国がその飛行高度を分析したところ、多くの問題点を発見したのです」

たとえば、この気球は西部モンタナ州の上空も飛行した。モンタナ州は核ミサイルの発射台が置かれている場所である。
米政府は、NBCニュースによって最初に報告されたこの事件に続き、水曜日に人口の少ないモンタナ州上空で気球が発見されるという奇妙な複数の事件が起こったと伝えた。このモンタナ州は核ミサイルの発射台が数多く設置されている場所である。
米国は長い時間をかけて、気球が弾頭を搭載していないかについて調査し、発見から1週間後になってようやく、戦闘機F–22「ラプター」を発射させ、これを撃墜した。

宇宙救助隊:UFOは屈辱から目を逸らさせ、楽しませた

一方、今回のスキャンダルを背景に、気球は世界のニュースのトレンドとなり、異星からきたものではないかなどといった憶測まで飛んだ。ちなみにこれは、米政府にとっては、まったく好都合であった。というのも、米国の防空システムが完全に失敗に終わったとも言える状況から国際社会の注意を逸らすことができたからである。

「これはまったくの屈辱です。通常であれば、国防大臣が辞任するレベルです。中国の偵察気球が国の核施設の上空、米国の戦略空軍がある場所を飛行したのですから。米国の防空システムは、直接的な意味で、これをまったく見過ごしたのです」

一方、中国外務省の公式報道官は、米国上空で確認された未確認の飛行物体は、制御されなくなった中国の民間の気象観測用の気球だと説明している。
ときと共に、この事件をめぐる騒ぎは静まった。しかし、この映画ではない、ノンフィクションの「気球スリラー」はハリウッドで映画化するに値する。「アメリカン・ドリーム・ファクトリー」効果を使って、米国の領空が実際にはいかに脆弱であるかを世界中に見せるためである。
ロシアの上院議員、アレクセイ・プシコフは自らのテレグラムチャンネルで、「2つの大洋という形での、北米大陸の自然な防衛も、不可侵を保障するものではなくなった」との結論を導き出している。
ニュース一覧
0
コメント投稿には、
ログインまたは新規登録が必要です
loader
チャットで返信
Заголовок открываемого материала