【ルポ】大正時代ほど着物が美しく、深い意味を持った時代は他にない

© 写真 : Aleksandr Dvoryanki「着物の伝説 英雄、和裁士、収集家」
「着物の伝説 英雄、和裁士、収集家」 - Sputnik 日本, 1920, 19.03.2023
サイン
3月2日、モスクワの東洋美術ギャラリーで、芸術学者ナタリア・バキナさんのコレクションを基にした着物展が開幕した。「着物の伝説 英雄、和裁士、収集家」と題された展覧会では、大正時代から1980年代までの女性用の着物、羽織、帯、その他の和装小物が展示されている。展覧会の主な目的は、着物というものが、日本の伝統的な民族衣装であるだけでなく、日本文化の一部であり、往々にして日本の歴史や伝統、民間伝承、伝説、おとぎ話、日本や中国の古典文学のテーマなどが反映された芸術作品でもあるということを広く紹介するということである。今回の展覧会の発案、キュレーターは日本文化専門家のタチアナ・ナウモワさんが手掛けた。
ギャラリーの小さなホールの中で、着物に描かれた色鮮やかな柄からは、愛、別れ、友情、裏切り、能やおとぎ話のストーリー、中国や日本の古典文学のテーマなどが生き生きと感じられる。
特に、日本のむかし話、「ねずみの嫁入り」をモチーフにした柄の入った古い訪問着には目を奪われる。
これは、とても独特で、着物でこのモチーフを使ったものは唯一のものであり、貴重なコレクションである。
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この色鮮やかなハレの日の着物に相対するのが、黒留袖「小督」である。黒い布地には、「平家物語」のストーリーともなっており、のちには能の戯曲にもなった小督局と高倉天皇との悲劇的な愛が描かれている。
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こうしたテーマは、日本人にはイメージしやすいものかもしれないが、日本について精通していない人にとってはただの美しい絵であり、そうした人々がその内容を理解する手助けとなったのが、展覧会のカタログと、展覧会の組織運営側が展示と並行して行ったレクチャーである。
この豊富なコレクションの持ち主は、ロシア芸術学者協会のメンバーであり、ロシアにおける着物史の代表的な専門家の1人、ナタリア・バキナさん。バキナさんのコレクションには大正時代(1912〜1926年)着物200点と異なるタイプの帯、そして様々な和装小物が含まれている。
この芸術的、歴史的な意味を持つ貴重な品々から成るコレクションは、ロシアだけでなく、ヨーロッパでも最大の個人コレクションである。またコレクションには、現在は日本でも見つけるのが難しい20世紀初頭のお引きずりが22点も含まれている。
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ナタリア・バキナさんは、「スプートニク」からのインタビューに応じた中で、着物のコレクションを始めたきっかけについて語ってくれた。

「初めて、自分のために着物を買うようになったのは、東洋博物館の日本展示室でボランティアのガイドとして働いていた頃です。その雰囲気に合わせようと思ったのです。わたしが日本文化に熱中していたときのことです。ロシアでは2014年に国際ショディエフ財団が開催した久保田一竹の着物展が開かれましたが、これはロシアで開かれた唯一の大規模な着物の展覧会でした。しかしそのとき展示されたのは、特定の時代を反映したものではなく、オリジナルの着物でした。最初はヨーロッパでの着物展のカタログを集めるようになりました。日本では着物は芸術品とされています。東京国立博物館では浮世絵や絵巻物、屏風などと一緒に、着物の展示が常設されています。おそらく、着物というものが単なる合理的なものではなく、芸術品であると認識したことが、コレクションを始めたきっかけだと思います。オークションで入札し、購入で失敗しないためには知識が必要です。もちろん、すぐに知識が得られるわけではありません。ときと共に経験を積んでいきました。カタログ、そして様々な博物館で数千の着物を目にし、アンティーク着物が売られているアムステルダムに行きました。その後、日本に行き、そこで古物商や専門家、そして日本に35年住んでいる有名な着物研究家のシーラ・クリフと知り合いました。もちろん、大正時代の着物では世界一のコレクションを持つ池田重子コレクションも目にしました。着物の専門家になるには、絵画、グラフィック、日本の演劇についての幅広い知識が必要です。つまり学術的なアプローチをすることが重要です。そうでなければ着物研究はできません。なぜなら、すべての着物が文化的、歴史的、芸術的、コレクション的な意味があるわけではないからです。数千点の着物を持っていても、物質的、精神的文化にとって貴重な品に値するような特徴を持つものが1点もないということもあり得るのです」

ナタリア・バキナさん
コレクションの持ち主
ナタリア・バキナさんによれば、着物の年数は、その価値を決定づける要素ではないという。明治時代の着物は、色合いも控えめで柄も少ないというまったく違ったスタイルのものである。しかも着物の保存状態はそれほどよくない。
そこで、彼女がコレクションの対象に選んだのは大正時代の着物である。
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「大正時代は期間としては短かったですが、着物へのアプローチを完全に変えた独特の時代でした。ヨーロッパでは、第一次世界大戦後、女性のファッションに革命が起きました。ショートヘアが流行り、洋服のデザインも変わり、女性も足を露出するようになりました。同じようなことが、明治の着物から大正の着物の変化にも見られました。着物の歴史という観点から見ると、劇的な変化ではありませんでした。着物のスタイルにおいて急激な変化が見られたのは元禄時代です。そのとき元禄模様というものが生まれました。大正文化の時代は、大正時代そのものよりも長く、1940年代まで続きました。なぜこの時代が好きかというと、非常に心がこもっていて、商業的な部分がないからです。大正時代ほど、日本の着物が美しく、多くの意味を持っていた時代は他にありません。そこにあったのは芸術の自由でした。たとえば、着物に割れた植木鉢を描きたいと思えば、描くことができました。流派もなく、基準もなく、芸術家のとめどない創造力を押さえつけるものがなかったのです。柄の構成という意味では完璧ではなかったかもしれませんが、しかしその作品には心がこもっています」

ナタリア・バキナさん
コレクションの持ち主
ナタリア・バキナさんのコレクションを基にした展覧会が開かれるのはこれが3回目となっている。
過去には、2021年に「芸者 着物の秘めたる言葉」、2022年に「着物の世界:日常使いから祝祭日まで」が、いずれも3月に開かれている。
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