【視点】NATO日本事務所 グローバルな同盟、グローバルな安全保障への新たな一歩か、それとも中国との紛争のリスクか

© AP Photo / Takashi Aoyama/POOLNATOのストルテンベルグ事務総長と日本の岸田文雄首相
NATOのストルテンベルグ事務総長と日本の岸田文雄首相 - Sputnik 日本, 1920, 15.05.2023
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日本の東京に、NATO(北大西洋条約機構)の日本事務所が開設される問題が検討されている。アジア太平洋地域にNATOの事務所を開設するという考えは、中国や北朝鮮といった国々からの脅威を背景に、地域の同盟国である日本、韓国、豪州、ニュージーランドとの定期的な協議を実施する必要性によるものだとされている。
冨田駐米大使は5月9日、NATO=北大西洋条約機構が東京都内に連絡事務所を開設する方向で検討を進めていることを明らかにした。これはNATO(北大西洋条約機構)が、グローバルなNATOとしてのアジアでのプレゼンスを強めることであり、日本はアジア太平洋地域の集団安全保障システムの創設において重要な役割を担うことになるということを意味するのだろうか。「スプートニク」が専門家にお話を伺った。
CIS諸国研究所ユーラシア統一・上海協力機構発展部門を率いるウラジーミル・エヴセーエフ氏は、日本でNATO事務所が開設されるからといって、日本がNATOに加盟することを意味するわけではないと指摘する。

「おそらく、これは今後2年間で、日本がオーカス(米英豪の軍事同盟)に加盟するというシグナルでしょう。一方でこれは、日本に対し、NATOとのコンタクトの強化が求められるということでもあります。こうした動きの準備となったのが、2023年1月に行われたストルテンベルグ事務総長の日本、韓国訪問です。そしてこれは、なぜ日本がすでにこの地域に直接関係のない紛争に関与しているのかという理由の一つです。日本政府はウクライナに55億ドルの支援をおこなっています。これはオーカスへの加盟の前兆であり、日本がNATOとより緊密に協力する意向の表れと言えます」

しかし、NATOは公式的には、日本を含め、拡大を行うとの意向は示していない。というのも、NATOはそれでなくとも、完全に見解が一致した組織ではないからだ。NATOの他の加盟国(たとえばハンガリーなど)の意見は、NATOで主導的役割を果たしている米国の立場に必ずしも一致しない。エヴセーエフ氏は、さらに現在はフランスも、米国から一定の距離を置こうとしていると指摘する。
NATOのストルテンベルグ事務総長と日本の林芳正外相 - Sputnik 日本, 1920, 07.04.2023
【視点】NATOに深くはまり込みつつある日本
先日、フランスのマクロン大統領は、欧州は米国への依存度を制限する必要があると指摘した。何よりも、これはヨーロッパ諸国が「封臣」と化すのを防ぎ、EUを、米国、中国と並ぶ「第3極」にするのを避け、世界における「他人の」危機に巻き込まれないようにすることが必要だと主張したのである。
これについて、ウラジーミル・エヴセーエフ氏は次のように述べている。
「この事実を考慮すれば、NATOのアジア拡大は展望のないものです。というのも、この発案は軍事同盟をさらに弱体化させる可能性があるからです。米国はこれを自覚しています。ですから、NATOと日本の関係強化することで、東に、個別のブロックを作ろうとしているのです。それが他でもないオーカスなのです。というのも、いずれにせよ、オーカスはアジア版NATOとなるべきものであり、NATOと緊密な協力を行うからです。しかも、日本の潜在力(技術力、軍事力)は、欧州の多くの国々を上回っています。ただし、日本とNATOの接近は、世界における反中国の動きを強めることになるということを忘れてはいけません。しかし、欧州でもアジアでも、多くの国々が、この路線にまったく同調しているわけではないのです」
一方、高等経済学院東洋学科のアンドレイ・フェシュン准教授は、欧米の軍事同盟の事務所が日本で開設されることは、いわゆる極東版NATOの創設という米国の計画が実際にはすでに実現されつつあることを証明するものだと指摘する。

「近く、この動きに続いて、その極東版NATOが北大西洋版のNATOに統合されるでしょう。そしてその結果、ロシアと中国を同時に網羅する独自の『弧』が構築されるのです。こうした計画が進んでいることを証明しているのが、日本と韓国があまりにも友好的に、関係を修復しつつあることです。これはまったく突然のことで、文字通り、『一気に』新たなレベルに押し上げられました。また韓国大統領の日本訪問もすでに実現し、まもなく岸田首相の韓国訪問が予定されていますし、広島でのG7サミットでも両者の会談が行われます。これまで日本と韓国は長年にわたって、歴史的な問題をめぐって互いに非難し合っていたというのに、現在、両国の首脳は、しっかりと親米路線に沿っています。ですからソウルにNATO事務所が開設されるのもそう遠くないでしょう」

ちなみに、最近、ワシントン・ポスト紙からのインタビューに答えたストルテンベルグNATO事務総長は、NATOは北米と欧州の同盟であり続け、アジア諸国を加えたグローバルな同盟になることはないと発言している。
林外相 - Sputnik 日本, 1920, 09.04.2023
【視点】日本は自らの脆弱性ゆえ、NATOとの緊密な協力を望んでいるのか 林外相が寄稿した論文の主旨
しかしながら、アンドレイ・フェシュン氏は、この事務総長の言葉は一種の狡猾な発言だと見ている。
「どんな言い回しをしても、NATOの計画にはなんの影響も及ぼしません。名称がどのようなものであれ、アジアで行われていることの本質は変わらないのです。そして、その本質とは、米国が極東で、また新たに中国に対抗するための軍事同盟を作ろうとしているということです。またこのことは、台湾をめぐってNATOと中国が紛争となる可能性について問われたストルテンベルグ事務総長が、その場合、深刻ないリスクに直面する危険性があると答えたことにも反映されています。それは何より、紛争が起これば、台湾海峡にある輸送路が中国によってたちまち封鎖されるということです。というのも、そうなった場合、日本は、「エネルギー飢餓」状態に陥ります。というのも、日本に運ばれるエネルギー資源のおよそ80%が中東から、他でもないこの海峡を通過して、タンカーで運ばれてくるからです。加えて、そのほとんどが台湾や韓国で生産されている半導体についてもそうです。つまり、軍事産業複合施設における韓国の重要な役割も指摘されています。つまり、欧州NATOは反ロシア、そしてアジア版は反中国という動きになるのです」
エヴセーエフ氏はさらに、(日本でのNATO事務所の開設を含め)米国主導による、こうしたアジアにおけるNATOの準備は、世界が新たな世界戦争のはざまにいることを証明していると述べている。
加えて、ストルテンベルグ事務総長が、集団安全保障はNATO領内のみを対象としていると述べたことには特別な注意を向けるべきである。
もしこの領域に、アジア諸国が含まれないのであれば、当然の疑問が湧いてくる。それは、日本は(こうした発言を背景に)NATOとの接近によって生じる脅威に単独で対抗する用意があるのかというものである。
というのも、米国と戦略的同盟関係にあり、日米安全保障条約が締結されているにもかかわらず、日本は最近も、中国と紛争が発生した場合、自国の安全が守れるかどうか分からないとしているのである。
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