【特集】日本人も対象!ロシアの新しい電子ビザの使い勝手は?「浸透に時間はかかるが、ロシアのオープンさ示すチャンス」と専門家

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モスクワの赤の広場 - Sputnik 日本, 1920, 03.08.2023
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8月1日、ロシア全域が対象となる外国人への統一電子ビザ(E-VISA)発給システムが運用開始した。55か国の国民が対象となっており、日本人もオンラインで電子ビザを受け取り、ロシアへ入国することができる。この制度をどのように活用できるか、取得方法や普及の条件、最新のロシア入国事情について識者に聞いた。
電子ビザは、ロシア外務省の専用ウェブサイトまたはアプリで必要事項を記入する。入国予定日の4日前まで申請することができる。添付するのは本人写真と機械読み取り式パスポートのスキャンのみで、何か他の書類を集める必要はない。シングル電子ビザの有効期限は発給日から60日間で、ロシアには入国日から16日間滞在できる。オンライン手数料の支払いには、VISAやマスターカードを使うことができる。ゲンナージー・オヴェチコ駐日ロシア臨時代理大使は、使用目的や見通しについて次のように話している。

「統一電子ビザは、観光や所用のため、または科学、文化、社会政治、経済、スポーツ等のイベントに参加するために、ロシアを訪問する権利を与えるものです。このシステムの開始により、外国市民はビザの手続きをデジタル化された最も便利な方法で行うことができるようになり、わが国の投資と観光の魅力が大幅に向上することは間違いありません。このプログラムの開始は、ロシアのビザ制度の自由化に向けた重大な一歩です。しかしながら、直行便がないことや、ロシアにおいてキャッシュレスで商品やサービスを購入する機会の制限といった、岸田政権が築いた障壁はまだあります。その上、日本の政治家やマスメディアの反ロシアヒステリーは、外国人のロシア訪問への関心を刺激するのに役立っていません。とは言っても、このようなものは一時的な困難であり、二国間交流の量と質はいずれコロナ前に戻るか、あるいはそれ以上になる、と確信しております」

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コロナ禍から現在に至るまで、どんな人がどんな目的でロシアを訪問していたのか。ロシアや旧ソ連圏への旅行、留学、ビジネス渡航等を幅広く扱う「ジェーアイシー(JIC)旅行センター」の杉浦信也社長によると、コロナ問題が深刻だった時は、日本帰国時のPCR検査など、帰ってくる時のハードルが高かったため、海外渡航自体を見合わせる人が多かった。2022年2月以降は、ウクライナ危機に大きな影響を受けた。日本で発行したクレジットカードが使えなくなり、比較的長く使えていた銀聯(ユニオンペイ)も同年5月には使えなくなった。結果、JICを通した2022年のロシアへの渡航者は数十人というレベルで、2019年の1割にも満たなかった。主にはロシア雑貨の買い付けなど、個人でビジネスをしている人たちだ。ところが、2023年に入って、留学事情が少し変わってきた。

「ロシアは、日本外務省の危険度でレベル3(渡航中止勧告)が出ているため、各大学は学生を送り出したくないという意向があります。ロシア語を教えている先生は現地事情をある程度把握しているので、そこまで危険ではないとわかっていますが、渡航を推奨することはできません。結果的に、学生さんは、カザフスタンやキルギス、ラトビアなど、ロシア以外を選択せざるを得ません。渡航中止勧告は、直行便の停止やカードが使えないことなど、一般人が渡航するには困難さが伴う、というのが主な理由だと聞いています。しかしいったんレベル3が出てしまうと、それをもとに皆が判断するので、心理的な影響が非常に大きいと思います。一方、社会人は最終的には自分の判断です。今年に入ってからは、ロシア語を勉強している大人で、モスクワやウラジオストクに行かれる方が増えてきました」

杉浦氏によると、意外なことに、日露関係が悪化した今でも日露間で締結したビザの簡素化協定は生きており、コロナ前の状態より、通常のビザ申請が難しくなっているということはない。純粋に観光目的で行く人はほとんどいないが、観光ビザも、書類に問題がなければ交付してもらえる。

「イメージ的に、非友好国の国民はビザがもらえないのでは?と思っている人がとても多いです。ロシアをよく知っている方でもそう考えていますし、ロシアビザは今でも出るのですか?というのは一番多いお問い合わせです。今回の新しい制度である電子ビザは、こういったイメージを払拭するのに役立つかもしれません。ロシアは外国人に対してオープンにビザを出している、という認識を持ってもらうために、良いきっかけではないかと思います。オンラインならビザセンターに出向かなくてもよいですし、ビザ貼付のためにパスポートを預けることもなくなり、時間・費用とも抑えられます」

ロシアが電子ビザを導入するのはこれが初めてではなく、2017年頃から極東地域を対象に実験的に始まっていた。JICでも、まずはスタッフをウラジオストクに派遣してロシア入国のプロセスを確認し、電子ビザの使い勝手を検証した上で、これを活用したパッケージツアーなどを取り扱っていた。杉浦氏は、当時の経験から、電子ビザの一般的な普及には時間がかかると予想する。

「実は精神的な障壁が意外と大きいです。まず、一般の方は、普通に間違える可能性があります。ある方は、姓名を反対に入力してしまって入国させてもらえず、どこへも行けずに次の日強制帰国になりました。逆に、ロシアに慣れている人は「本当にこれで大丈夫なのかな」と不安がります。商談などでは観光客が行かない場所、特にウラジオストクなどは港湾施設があるので、大丈夫なのかどうか、運用の範囲がよくわかりませんでした。ですので、ロシアに出張し慣れている方は逆に、通常のビザを取る、という判断をされる方が多かったです。今回はロシア全土が対象ですから、使い方のノウハウが蓄積されて、慣れていくには時間がかかるでしょう」

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オンラインでの個人情報入力は、世界的な傾向だ。現在、日本人がアメリカを短期訪問するには、電子渡航認証システムESTA(エスタ)が必要だ。2024年からはヨーロッパ訪問の際にETIAS(エティアス)が導入される。これらはビザ免除を補助する制度として存在するわけだが、ビザという形をとっているロシアの場合も、結局入力事項はほぼ同じ。どこへ行くにも同じ作業をすることになるので、これらの制度には慣れていくしかない。
ただし電子ビザで気軽に入国できても、ロシアでカードが使えない問題は根深く残る。ロシアへ現金を持ち込み、現地でルーブルに両替しなければならないので、大金を持ち歩くというハードルがある。このため、日本の旅行社を通してホテル等をあらかじめ予約・支払いし、現地での大きな支出を抑えようとする動きが広がっている。
これまでは、「足」の問題が大きかったが、最近は中国経由という可能性が広がったことで、少し状況が改善してきた。中国・ハルビンからハバロフスクやウラジオストクに飛んだり、北京の新しい空の玄関「大興(だいこう)国際空港」経由なら、モスクワ方面にも、極東方面にも便利に行ける。まだ大興国際空港行きの日本便はあまり多くはないが、JICもこれから中国経由のルートを本格的に取り扱っていく。

「ロシアの中でも、ウラジオストクとの交流は特に盛んなため、現地の状況を見に行きたいという人は数多くいます。しかし従来の日本→中東→モスクワ→ウラジオストクというルートや、モンゴル経由のルートだと、時間的にも距離的にも大変で、乗り換えも多いです。その点北京経由なら、より気軽に行けます。さらに、ウクライナ情勢に伴う危険は主に西の方で、レベル上は同じ危険度3であっても、極東ならば実際上の危険はずっと低い、と考える人が多いです。これまでウラジオストクには、夏だけでも100人近く、語学研修やホームステイで送り出していましたので、需要はかなりあります。今後も、極東方面に力を入れていきたいと思います」

ロシア国家統計局によると、2019年は11万2000人が日本からロシアを訪れていた。そこまでの水準の回復には長い時間がかかりそうだが、必要に応じて、新制度をうまく活用する価値は大いにあるだろう。
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