安定要因としての朝鮮半島縦断ガスパイプライン

トランプ米大統領と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正恩委員長によるシンガポールでの首脳会談成功を背景に、朝鮮半島における問題解決プロセスへのロシアの参加が目に飛び込んでくることはない。しかし、このことは、ロシアがこの問題から距離を置いていることを意味しない。
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好むと好まざるとにかかわらず、米国と北朝鮮は現在、事実上、露中両政府によって提示されたプランの原則に基づいて対話を展開している。即ち、政治的対話のフォーマットでの北朝鮮のミサイル・核問題の段階的解決と、北朝鮮の国境近くでの軍事的活動の並行的な縮小である。北朝鮮政府は自国の核実験場を既に爆破し、今後の実験を断念しつつある。米国は韓国と共同で、軍事演習を一時停止した。北朝鮮との戦争案の習熟が演習の目的だったことは秘密ではない。そして同時に、南北間と米朝間における2国間での活発な政治的対話が行われている。

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他方では、ロシアと韓国の間の交渉や金委員長の北京訪問、また日朝間で始まった対話が、近い将来の展望における、見慣れた6カ国間フォーマットへの移行を明白なものにしつつある。問題は、最近の数カ月で北朝鮮問題の解決において作り出された前向きな進捗中の作業を、地域の全ての国家が何らかの方法で維持しなければならない、ということにある。私の考えでは、その予見不可能性と経験のなさで増幅された、朝鮮半島方面でのトランプ大統領の過度な活発さが、情勢を急激な武力対決の方向に瞬く間に発展させる可能性があると、皆がはっきり理解している。

さらに、6カ国協議によって、地域の国々の利益を考慮に入れることがより可能になる。日本にとって、この利益というのは拉致と中距離ミサイルの問題であり、これが北朝鮮の安全を保証することをより重いものにする。米国による口約束だけでは足りない。核兵器開発を断念したリビアの荒廃を思い出してみよう。

同時に、ロシアには、欧州においてと同じように、朝鮮半島に対するエネルギー供給システムを創設する用意がある。6月15日、北朝鮮領を通るパイプラインを使った半島へのガス供給に関する交渉を、ガスプロムと韓国が再開したことが発表された。

ガスプロムのマルケロフ取締役副会長は記者らに対し、「我々はこの問題を、既に2011年に韓国側と議論し始めた」と述べ、「複数の予定ルートが選定され、北朝鮮とも、韓国とも交渉が行われた。その後、南北間の関係が悪化し、交渉は一時停止された。しかし今日、朝鮮半島における政治的状況はいくらか別のものになっている。韓国側は既にガスプロムに対し、交渉再開に関して問い合わせをしてきた。一連の会合が既に行われている」と語った。

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この話は新しいものではない。朝鮮半島縦断ガスパイプラインのプロジェクトの詳細な検討は、ガスプロムと韓国ガス公社(KOGAS)がガス供給プロジェクトの共同研究についての合意に署名した2009年に始まっている。2010年には、ガス輸送システム「サハリン・ハバロフスク・ウラジオストク」の最終地点から韓国へガス供給を実現する複数の案の研究に関する総括報告が準備された。

2011年、ガスプロムと北朝鮮の原油工業省の間で相互理解についての覚え書きが署名された。覚え書きに従って双方は、ロシアから朝鮮半島へのパイプラインを使った天然ガス供給プロジェクトの実現のため、協力することで合意した。北朝鮮側からの支持を得る目的で、ガスプロムとKOGASは、ロシアから韓国への天然ガス供給実現に関する「ロードマップ」に署名した。

一方、ロシアのプーチン大統領は2013年、ロシアが「南北朝鮮の間の」関係に介入することはなく、「もし南北双方が合意できれば、この案はかなり急速に実現されるだろう」と述べている。

ロシア産ガスが韓国に、2017年に供給され始めることも計画されていた。ガスパイプラインの総延長は、最短ルートが選ばれれば、1100キロとなる可能性がある。そのうち700キロが北朝鮮を通ることになる。KOGASは、北朝鮮を通る区間の建設費用を25億ドルと見積もった。ロシアから韓国への予想されるガス供給量は、最大で年間120億立方メートルとなる可能性がある。

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重要なことは、プロジェクトが実現された場合、北朝鮮政府が通過料による利益と、自国の需要をカバーするためのロシア産ガスも受け取ることができるということである。韓国政府にとっては、供給の多角化と便利な価格が重要だ。液化天然ガス(LNG)は伝統的に、パイプラインのガスよりも価格が高い。

しかし、利益を勘定するにはまだ早い。ただ、朝鮮半島における関係安定化のためにこのようなプロジェクトが有する政治的意義について忘れることもまた、してはならない。韓国政府内では、このような協力の政治的・経済的側面が良く理解されている。

韓国の文在寅大統領は、今回のモスクワ訪問を前に、ロシアの記者らに対し、「3者間の協力に関して言えば、これは鉄道や送電線の連結、またガスパイプラインの建設のような複数の大規模プロジェクトになる可能性がある。これらの実現は、必要な諸条件が満たされれば可能だ。朝鮮半島縦断鉄道の連結後には、この鉄道はシベリア鉄道に出ることができる。この場合、韓国からの貨物の流れはシベリア鉄道を通って欧州まで行くことができる。このことは、経済的利益を南北にだけでなく、ロシアにももたらすことになる。我々はまた、ガスパイプラインを北を経由して敷設することもできる。そうすれば、ロシア産ガスを受け取れるのは韓国だけではない。我々は、例えば、ガスをさらに遠くの日本に輸送できるようになる」と述べている。

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