一方、マレーシアのマハティール・ビン・モハマド前首相は、この新たな経済連携について、「中国を排除し、対抗しようとするものだ」として批判し、中国なくして地域の経済成長を促進することはできないとの見解を明らかにした。
マレーシアの首相はIPEFについて、新たな経済連携は、「投資家の信頼を強化し、外国の投資の増加を刺激するものであり、それは環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定の加盟国だけでなく、協定の枠内で提案されている特恵関税を活用することができる、協定に加盟していない国々にとっても同様である」との確信を明らかにした。
この首相の言葉は国営通信社ベルナマが報じた。また首相は、新たな合意は今後の貿易活動の発展を促進するものであり、結果として、地域における製品のバリュー・チェーンを高めることになるとの確信を示した。
マレーシアはIPEFに参加することで、電気・電化製品や光学製品、化学産業製品を中心とした輸出を増加することを期待している。
しかし、マレーシア国内では、誰もがこのように楽観的な立場を示している訳ではない。東京で開催された国際交流会議で、マレーシアのマハティール・ビン・モハマド前首相は、「米国は常に、こうした連携を中国の孤立化のために利用しようとする。多くの国がこれは経済的同盟ではなく、政治的同盟だと認めている」と述べ、IPEFの条項に対してより慎重な態度をとるよう呼びかけた。
これと同様の立場を表明しているのが、マハティール前首相が結成したマレーシアの政党「プジュアン」(祖国闘士党)のタリク・イスマイル外交問題会議議長である。
イスマイル氏は、マレーシアは、投資を引き入れ、経済を発展させようとしていようとも、新たな地域連携への参加がもたらすより広い地政学的結果を考慮に入れるべきだとの見方を示している。
またIPEFへの早期加盟については、マレーシアのペナン消費者協会も懸念を示している。ムヒディン・アブドゥル・カデル会長は次のように述べている。「IPEFへの参加に関する声明は詳細に検討されるべきである。というのも、とりわけ現在のような、国が経済危機を迎えている不穏な時代に、協議を開始するためのしかるべき理由はないように思われるからだ。米国の利益を第一に考える歴代の米政権の経験を考慮すれば、IPEFはマレーシアにとって有害なものになるだろう」。
マレーシアは、経済指標から見れば、IPEFの要求に合致している。マレーシア経済はアジア太平洋地域で第8位、世界で36位を占めている。
その主な輸出品目は、電気・電化製品、半導体、パーム油、石油、液化天然ガス、木材、ゴム製品、テキスタイル、また主な貿易相手国は、輸出でも輸入でも米国、日本、シンガポールとなっている。
マレーシアの産業部門はGDP(国内総生産)のおよそ36.8%で、産業に従事する国民の割合はおよそ40%となっている。電気・電化製品部門は、マレーシアの産業分野における主要なもので、輸出全体のおよそ32%を占めている。国内には、大手企業、インテル、ASE、AMD、テキサスインスツルメンツなどの製造工場があり、自動車産業も大きく発展している。マレーシア国内には640もの自動車製造工場が置かれており、自動車だけでなく、部品の製造も行われている。年間の自動車製造台数は5億台を超える。
一方、もっとも新しい産業部門の一つとなっているのが防衛産業である。マレーシアの対外貿易の成功の要因は、経済の多角化、グローバルなサプライチェーンへの参入、そして安価な労働力である。国民1人当たりの収入増加に向けた政府の取り組みにもかかわらず、マレーシアの賃金上昇率は非常に遅く、経済協力開発機構(OECD)の基準を下回っている。