チェルノブイリ、福島級の事態になる確率は低い
原発のすぐ近くで軍事活動が行われ、しかも発電所そのものやそのインフラが危険にさらされている場合、チェルノブイリや福島で起こったように、最も重要な安全システムの破壊とそれに伴う放射性粒子の放出が懸念される。 スプートニクは原子力安全の専門家に取材し、事態が否定的な展開を見せる恐れがあるかを尋ねた。
国立調査原子力大学講師、IAEA核情報システム(INIS)元ロシア代表、核物理学者のヴャチェスラフ・クプリヤノフ氏はスプートニクからの取材に、「原発の実情や周囲の状況を知らないため、あくまで自分の推論はすべて純粋に理論的なもの」と断ったうえで、設計上の特徴から見て、ザポリージャ原発でチェルノブイリや福島原発レベルの事故が起こる危険性は低いとして、次のように語っている。
「核や放射能といった意味で最も危険なのは、原子炉、核燃料、使用済み燃料プールなどがある原子炉室で、潜在的にこうした危険性があるため、大事故の際に放射性物質が周囲に放出されないよう、特殊な格納容器で保護されている。ザポリージャ原発には事故発生の事態に備え、他の原発と同様、原子炉を安全な状態にする自動停止装置がある。 コンクリート製の格納容器本体と原子炉が破損すれば大惨事になりうるが、その可能性はほぼない。1つまたは複数の損壊が重なり、制御不可能な状況になる危険性もある。例えば、原発の電子制御装置がある建物に攻撃が直撃するような場合がそうだ。こうなれば、工場の担当者は、規格外の判断を最短時間で下さなければならない......」
原子炉の他にも深刻な事態になる施設はある
8月29日、ザポリージャ原発から5キロ離れたエネルゴダール市当局は、原子炉の燃料保管施設であるザポリージャ原発特別棟第1棟の屋根が砲撃で損傷と発表した。ポータル「アトミンフォ」のアレクサンドル・ウヴァロフ編集長は、発電所には発電ユニット以外にも脆弱な設備があると指摘している。
「他の原発もそうだが、ザポリージャ原発の敷地内には原子炉の他にも損壊を受けると大変な結果を招いてしまう施設がある。放射性廃棄物の貯蔵施設もその一例で、汚染された機器、職員の衣服、様々な種類の液体性の放射性廃棄物などがそうだ。こうした保管庫は原子炉に比べて、その防御性の信頼性は低く、破損となれば原発周辺が汚染される恐れがある。それ以上に危険なのは、使用済み核燃料の貯蔵施設だ。使用済み核燃料は、以前はロシアに送って再処理していたが、2001年からは原発敷地内に二重遮蔽のコンクリートコンテナによる乾式の長期保管用施設が設置された。だが、この防御も砲弾やミサイルの攻撃によって破壊される恐れがある。私の知る限りでは容器の数は173か174だが、 仮にわずかな数の容器が破損したとしても、それほど深刻な結果にはならないと思う。ただ、多くの容器が破壊されるとなると、大量の放射能が放出される恐れはある。チェルノブイリとまではいかないものの、危険度は十分高い。これらの貯蔵施設はIAEAの安全要求事項を満たしているが、最新の火器の攻撃による損傷に耐えられるようには設計されていない」
状況確認が目的のIAEA調査団
今週、各国の専門家14名からなるIAEA調査団がザポリージャ原発入りする。現地入りの目的は施設の被った損傷を評価し、すべての安全システムの作動可能性を判断すること。調査団の団長を務めるIAEAグロッシ事務局長は、原子炉の状態や核物質の在庫を調べ、これが平和利用以外に「転用」されていないことを確認することも任務に含まれていると語っている。グロッシ事務局長は、IAEAは状況の安定化を支援せなばならないと強調した。クプリヤノフ氏はスプートニクからの取材に、IAEA調査団がザポリージャ原発入りすれば状況を安定化することが叶わずとも、鎮静化には一役買うと指摘した。