北朝鮮のミサイル発射に対する対抗措置
これに関する報道においては、同盟国が公然と北朝鮮の脅威に対して対抗措置を取ると決めた、武力を用いる用意があることを表しているなどという一般的な論調が用いられている。しかし、それよりも興味深いのは、この演習で空母群とこれを支援する韓国軍が何をしているのかという点である。
2022年9月30日に行われた演習で、米韓の艦隊は北朝鮮からの攻撃を想定した対潜水艦戦闘訓練を行った。おそらく演習の目的は、弾頭ミサイルを搭載した北朝鮮の潜水艦に対抗し、潜水艦を拿捕して、発射海域に向かうまでに掃討することだと思われる。
元山湾に配備されている北朝鮮のミサイル搭載型潜水艦は、ミサイル発射を行う海域に出るため、対馬海峡を通る。今回、同盟国は爆撃を行うため集結し、韓国空軍のF-15K戦闘機4機と米空軍のF-16戦闘機4機が精密爆撃訓練に参加した。爆撃の仮想標的に設定されたのは、黄海に浮かぶ小さな無人島である。
爆弾は、口径500ポンドのGBU−38のような通常爆弾を精密誘導爆弾に変えるための統合直接攻撃弾(JDAM)に装着された。この装置は、ユーゴスラヴィア、イラク、アフガニスタンにおける戦争でもうまく使用されたものである。
韓国はさらに、韓国製の弾道ミサイル「玄武2」(このミサイルには射程300キロから800キロまでの3つの改良型がある)の発射を計画していたが、発射直後に爆発し、非武装地帯近くの基地で火災を起こした。つまり、北朝鮮のミサイル発射実験に対する米国と韓国による対抗措置は、8機の戦闘機が小さな島に爆撃を行っただけということになる。
しかし、これは陸上航空部隊の演習である。 空母はまったく異なる戦闘機を装備している。空母が配置されている第5空母航空団に搭載されているのはF/A-18E機である。今回、このF/A-18E機は演習には参加していないと思われる。
そこで沸き起こってくるのは、ではなぜ空母が必要だったのかという疑問である。北朝鮮のミサイルを撃墜するためなのか?
空母が出航するときには必ず駆逐艦がこれに伴うが、今回も同様であった。2022年9月30日、ロナルド・レーガンは、ミサイル巡洋艦チャンセラーズビルと駆逐艦ベンフォールドと共に演習に参加した。2度目の演習がすぐに始まったことを考えれば、空母が同じ艦艇を伴っていたことは明白である。
中でももっとも興味深いのは駆逐艦ベンフォールドである。ベンフォールドはイージスシステムを搭載しており、発射装置は90セル、最大74発の地対空ミサ イルを運搬することができる。2009年3月に行われた巡航ミサイルと弾道ミサイルの同時迎撃訓練に参加したのもこの駆逐艦である。
その訓練では、RIM-67 SM-2 ブロックIVが弾道ミサイルを想定した目標物を撃墜した。 つまり、空母が巡洋艦と駆逐艦を従えて参加した今回の日本海上での演習の目的としてもっと 高い可能性があるのが、北朝鮮からの弾道弾ミサイルの発射を迎撃するポジションにつき、日本 に飛翔するまでに撃墜するというものである。
空母群の演習について、今回の場合、日本海に向かう目的がいくらか曖昧に隠されている。というのも、いずれにせよ、空母にはその他の役割は考えられないからである。近い将来、北朝鮮の艦隊との戦闘が起きたり、あるいは北朝鮮の何らかの目標物に爆撃を行うことになるとは 考えにくい。 そのことからも、この空母の配備によって、北朝鮮の新たな発射実験を招くことはないという結論を導き出すことができる。
逆に、北朝鮮にとっては、自国のミサイルが米国のイージス弾道ミサイル迎撃システムと直接衝突するという状況を避けることができるため、有益なのである。今のところ、実際の迎撃は行われておらず、米軍司令部には命題のようなものがある。それは「演習は戦争ではない」、つまり戦闘におけるシステムの効果は、演習場での条件下に比べて、はるかに低い可能性があるということである。
つまり、戦争の際に、ミサイル防衛線により多くの艦艇を配備することができず、北朝鮮のミサイルを撃ち落とすことができない可能性もあるということである。 もしも、戦闘にかなり近い条件下で迎撃に成功すれば、米軍はその成功によって、日本海全域にミサイル迎撃システムを搭載した艦艇を配備することができ、北朝鮮からのミサイル攻撃の効果を客観的に低減することができる。北朝鮮がまた自国の幅広い種類の兵器の中から発射実験を行うことができるのは、空母群がこの海域から撤収した後になるだろう。