穀物合意 現状と今後の展開

【解説】ロシア、「穀物合意」への参加を停止 責任は誰にあるのか?

ロシア黒海艦隊に対する攻撃を受けてウクライナとの所謂「穀物合意」への参加を一時的に停止することを決めたことで、ロシアは西側諸国から非難を浴びた。西側は、彼ら自体がそれを履行したことがないにもかかわらず、ロシア連邦に対して合意条項を履行するよう求めた。すべてはどのように始まり、どうなったのかをスプートニク通信がお伝えする。
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ロシアは10月29日、「穀物合意」への参加を停止すると発表した。これは、「穀物合意」実現のために海上回廊の安全保障を担保していた露黒海艦隊や民間船に対してウクライナが攻撃を行ったことを受けた措置だ。ロシアは、本合意の枠内で航行する民間船の安全は保障できないとした。ロシア国防省は、穀物輸出合意への参加停止について、セバストポリ周辺海域でのテロ行為が原因だと説明した。10月29日午前、ウクライナはセバストポリ基地内外に停泊している黒海艦隊戦艦および民間船を攻撃した。
「穀物合意」への参加停止を発表したロシアは、すぐさま非難の嵐にさらされた。バイデン米大統領は「言語道断だ」と述べ、ブリンケン米国務長官はさらに踏み込んで、ロシアは「再び食糧を武器として使っている」と批判し、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)もロシアに「その決定を取り消す」よう要求し、日本は遺憾の意を表明し、「特に途上国における飢餓の拡大など、脆弱な層への影響を深刻に懸念し、注視をしている」と指摘した。

すべてはこのように始まった

2022年2月、ロシアはドネツクおよびルガンスク両人民共和国の独立を承認し、両共和国からの支援要請を受けて、ウクライナで特殊軍事作戦を開始した。
ウクライナでの出来事、また西側による大規模な対ロシア制裁は、穀物と肥料の供給混乱を引き起こし、すでに世界の多くの国で勢いを増していた食料危機をさらに深刻化させた。
ウクライナの港では、ウクライナ軍による機雷敷設が原因で、(さまざまな情報によると)輸出用の穀物150万トンから2200万トンが滞留していた。ウクライナの鉄道輸送能力は軍事輸送によって負荷がかかりすぎており、陸上で運ぶことは不可能であることがわかった。
一連の協議を経て2022年7月22日、「穀物合意」を仲介したトルコのエルドアン大統領と国連のグテーレス事務総長出席の下、ロシアとウクライナは合意に署名した。合意は、黒海に面するウクライナの港から穀物を輸出するための安全な海上回廊の設置などを規定していた。
またロシアと国連はトルコのイスタンブールでロシア産の穀物と肥料の世界市場への供給促進に関する覚書に署名した。したがってうまくいけば、この「合意」は食品市場の緊張緩和に役立つはずだった。
穀物合意 現状と今後の展開
「穀物合意」 ロシアはトルコおよび国連と連絡を取り続けている=ペスコフ大統領報道官

西側は合意条項を履行しなかった

7月27日、イスタンブールに船舶や貨物の移動を管理する共同調整センターが開設された。国連のサイトには、同センターの報告、穀物輸送ルートや受取人に関する情報を掲載するためのページがつくられた。国連よると、ロシアが参加を停止した10月29日時点で、390隻の貨物船が880万トンの穀物を積んでオデッサ港、ユージヌイ港、チェルノモルスクの港を出港した。
ロシアは合意を遵守していたものの、合意は完全には履行されなかった。1つ目に、ウクライナからの食料輸出の半分以上がEU、英国、イスラエル、韓国などの先進国の倉庫に送られた。一連の輸出では、特に菜種、トウモロコシ、大豆などの60%から100%をEU加盟国が受け取った。一方、ソマリア、エチオピア、イエメン、スーダン、アフガニスタンなどの支援を必要としている国々は、主に国連世界食糧計画を通じてわずか3%しか受け取ることができなかった。2つ目に、国連側がその解除について保証しているにもかかわらず、ロシア産の穀物と肥料の輸出を制限している西側による制裁が解除されなかった。国際企業はロシア産製品を輸送することが禁止された。欧州諸国経由でロシア産肥料を輸出するための障壁も解消されなかった。これまでと同様に、ロシアの船舶は欧州の港への入港が禁止されている。ロシアの貨物に関する保険の停止や運送業者の責任の問題も残った。
なおロシアのプーチン大統領は9月、ロシアは途上国に30万トンの肥料を無償提供する用意があると表明し、EUに対してロシア産肥料の制限解除を働きかけるよう国連に求めた。
プーチン大統領はまた、2022年末までにアジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々に最大3000万トンの穀物を供給する用意があると表明した。

合意失敗の責任は誰にあるのか?

ロシアが合意への参加を一時停止すると決定した原因は、西側が合意の履行を拒否し、自国の穀物貯蔵施設を満たし、必要としている国にロシア産穀物を渡さなかったからだけではない。
「合意」に対する最初の一撃となったのは、クリミア大橋でのテロ事件を調査する過程で、爆発物が8月初旬にウクライナのオデッサ港からブルガリアのルセ市に送られたことが分かったことだ。プーチン大統領は10月14日、ウクライナの特務機関が自分たちのテロ計画を実行するために穀物輸出の回廊を使った可能性を排除しなかった。
ロシア外務省も10月28日、イスタンブール港に多数の船舶が滞留していることに注目し、これは人為的なものであり、ウクライナを出入りする船舶を検査しているロシアの専門家に圧力をかけ、統制を弱め、検証手続きを加速させることを目的としていると発表した。
10月29日に発生した黒海での無人機攻撃は、安全保障上の懸念を高めただけであり、ロシアは合意を「無期限」に停止した。
ヴァルダイ国際討論クラブにおけるプーチン大統領の主要発言

その後どうなったのか?

合意への参加停止は、ロシアが南半球の発展途上国への穀物および肥料の供給に関する自国の取り組みを停止することを意味するものではない。
ロシアのパトルシェフ農相は10月29日、ロシアは今後4か月で最大50万トンの穀物を最貧国に無償提供する用意があると表明した。そこにはトルコの「信頼できるパートナー」が参加して行われるものも含まれるという。
一方、トルコ、ウクライナ、国連は10月30日、ロシア抜きで「穀物回廊」を通じて輸送を続けることをほのめかした。そして翌31日、3者は16隻の船舶の移動計画に合意した。
ロシアのラブロフ外相はトルコのチャブシオール外相との電話会談で、ロシアの「穀物合意」への参加再開を議論するためには、ウクライナがロシアに対する戦闘行為のために回廊や港を使わないことを保証する必要があると指摘した。
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