「上限価格」とは
今回の「上限価格」の導入の目的とは一体どのようなものなのか。またその目的は達成されるのだろうか?
「1バレル60ドルという価格は、ロシアの代表的な油種であるウラル原油の過去5年の平均価格です。そこでこの『上限』の価格は、ロシア産原油を今後も国際市場に輸出するためのほぼ最高値で設定されたものといえます。この額はロシアにとってまったく悲劇的なものではありません。ただ問題は別のところにあります。ロシアが国家主権の問題に対する強制や介入を許すことはないということです。元エネルギー大臣であるノバク副首相は最近、価格上限の水準にかかわらず、原油に対する制限は受け入れられないと述べています。これがロシア産原油の今後の供給にどのような影響を及ぼすのかは現時点では不透明です。しかし、いずれにせよ、世界の原油取引に対する非市場的な介入という前例が他の輸出国にも普及していくかもしれないという危険性を孕んでいます」。
「上限価格」の設定は輸入国にとってどのようなリスクを持つのか?
「もし中国が経済発展のテンポが落ちることによって、原油の消費を削減すれば、価格が下落することもあります。そうなれば、ロシアは原油を減産する可能性もあり、そうなれば世界市場の石油不足を招き、エネルギー資源の輸入国の経済に否定的な影響を及ぼし、燃料やガソリンの価格も上昇することで消費者にも打撃を与えることとなります。
つまり、ここで大きな影響力を持つのがインドと中国です。この2カ国は現在、ロシア産原油の大規模な輸入国となりました。西側諸国がロシア産原油の禁輸を決めた後、ロシアはこうした国への輸出によって、損失を補填しようとしています。現在までのところ、彼らはロシア産原油を最大1バレル30ドルもの割引で購入してきました。もし、この国々が上限価格の設定に参加すれば、ロシアは供給を停止する可能性もあります。そこで大きな問題となってくるのが、2023年に中国とインドはロシアの原油を輸入するかどうかという点です。もちろん、もしロシアが中東やアフリカの油種と比較して、割引価格で供給してくれるなら、彼らにとっては、ロシア産原油を買う方が得です。しかし、どちらの国にも、石油加工企業が解決しなければならない問題があります。
一つは、ロシアの西の港からアジアに原油を輸送するための船の不足。
もう一つは、保険の問題です。どちらの国も二次制裁を恐れているのです。
一方、日本について言えば、わたしが知る限り、『サハリン2』の石油は『上限価格』の合意から除外されています。日本のエネルギー安全保障がその理由です。もっとも、この供給は、日本が輸入する原油全体のわずか3.6%ほどではありますが、しかし、もし世界の原油価格が高騰すれば、日本も被害を受けることになります。」