ロシアによるウクライナでの特別軍事作戦
2022年に起きた重要な出来事は、ロシアによるウクライナでの特別軍事作戦。ロシアのプーチン大統領は、10月に開催された有識者会議「ヴァルダイ国際討論クラブ」で、特別作戦は、大西洋条約機構(NATO)がウクライナを犠牲にして拡大しようとしたことがきっかけになったと語っている。
プーチン大統領は、「私はもう、ウクライナの犠牲の上に成り立つNATO拡大については語らない。NATO拡大は我々には絶対に容認できないことだった。そして、誰もがこのことを知っていたのに、我々の安全保障上の利益を完全に無視したのだ。2021年末に(NATO拡大を阻止する)試みを行ったものの、それは失敗に終わった」と語っている。
プーチン大統領は、西側諸国の支援を受けたウクライナ政権がミンスク合意の遵守を公然と拒否していることに言及した。
プーチン氏は、「これは、我々にとってドンバスのために何かしなければならないということを意味している。人々は8年間、砲撃の下で生活してきたのだ」と述べた。
ウクライナのドネツク州やルガンスク州では、2014年から戦闘が続いている。プーチン大統領が述べているように、ウクライナ政府はドンバスに対する新たな攻撃を準備していたため、ロシアは2月24日に特別軍事作戦を開始せざるを得なかった。自らをロシア国民の一員とみなす人々や、ウクライナ政権による大量虐殺に8年間さらされてきた人々の安全を確保するため、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国の独立を承認し、ロシア連邦への加盟が決定された。
NATO拡大への新たな展望
NATOの拡大は、現代のロシアにとって主な脅威の一つである。NATOは実際、その創設以来、ソ連、1955年に結成されたワルシャワ条約機構(WTO)に対抗することに重点を置いていた。そしてNATOは、WTOの解散とソ連崩壊後はロシアに対抗することを志向してきた。
ロシアのワシリー・ネベンジャ国連大使が12月に発言したように、NATO拡大を目指す西側諸国は、欧州を対立に追いやっており、ひいてはそれが世界全体を脅かしている。しかし、米国を中心とする欧州各国は、特別軍事作戦の開始前も開始後も、ロシアの懸念に配慮することはなかった。
2021年12月、ロシアは安全保障に関する米国との条約案及びロシアとNATOの協定案を公表した。ロシアは西側諸国に対し、NATOの東方拡大停止や、ウクライナのNATO非加盟、旧ソ連諸国に軍事基地を持たないことなどに関する法的な保証を要求した。しかし、ブリンケン米国務長官は、米国は今後もNATOの扉は開かれているという原則を続けていくとの考えを示した。
ロシアの特別軍事作戦を背景に、フィンランドとスウェーデンは5月、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長に加盟申請の書類を提出した。現在のところ、NATO加盟国30カ国中でフィンランドとスウェーデンの加盟に批准していないのは、ハンガリーとトルコの2カ国だけではあるものの、ハンガリー政府は2023年2月に批准する意向を表明している。
トルコ政府は当初、スウェーデンとフィンランド両政府がトルコでテロ組織と認定されているクルディスタン労働者党を支持することに懸念を示し、申請手続きの着手に難色を示した。しかし、その後、スウェーデンとフィンランド両政府は、クルディスタン労働者党とその組織に対する戦いにおいてトルコに全面的に協力することに合意し、この3カ国は安全保障に関する覚書を交わした。トルコ側は、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟への反対を撤回したが、この2カ国が約束を履行しない場合は加盟に同意しないと強調した。
この覚書の署名以降、北欧2カ国の加盟手続きに関する3者会談が何度か開かれている。次回の協議は1月中旬に行われ、スウェーデンとフィンランドの国会議長がトルコに赴き、NATO加盟に関する問題について協議する予定。
台湾海峡の緊張が激化
その後、中国の習近平国家主席は米国のバイデン大統領に対し、台湾は中米関係のレッドラインであり、越えてはならないものであるとの考えを示した。
新たな核保有国
北朝鮮は2022年、核兵器に関するあらゆる決定権が金正恩委員長に帰属する「核保有国」であることを定めた「核兵器政策」という法令を採択した。これにより、朝鮮半島の緊張は急激に高まった。
北朝鮮は、ミサイル発射実験の回数を大幅に増やしている。北朝鮮は今年に入ってから、射程距離が過去最長の4500キロメートルに及ぶ大陸間中距離弾道ミサイル「火星12」の発射など、合計30回を超えるミサイル発射実験を実施した。
北朝鮮当局は、ミサイル発射は米国と韓国による合同軍事演習の活発化を背景に行われたとしている。一方、韓国と米国両政府は、緊張を高めたのは北朝鮮政府に責任があるとし、こういった行為に対して厳しく対応するとの考えを示した。
米軍は12月14日、在韓米軍に宇宙軍を創設した。この軍は北朝鮮から発射されたミサイルの監視を担う。この日、韓国北西部の京畿道平沢市にある烏山米空軍基地で、在韓米宇宙軍の創設式が行われた。
イランでの抗議行動 イスラムの伝統が変革への道に?
イランでは9月、世界を揺るがす大規模な抗議デモが発生。現地で発生した大規模デモの原因は、首都テヘランでヒジャブの着用が不適切だったとして道徳警察に拘束された少女のマフサ・アミニさんがその数日後に亡くなったというもの。
拘束されたアミニさんは、警察と軍の情報部門に属するファラジ・センターの1つに送られ、警察はアミニさんに事情を説明するように求めたという。その施設でアミニさんは心臓発作を起こしたため、すぐに病院に搬送された。その3日後の9月16日、アミニさんは亡くなった。少女の死は、世間を騒がせることになった。イランの人々は、アミニさんの死の責任は道徳警察にあるとして、抗議のために街頭に立った。
イランでは女性が髪を切り、着用が義務づけられている頭を覆うスカーフ「ヒジャブ」や「ルサリ」を燃やす動画がSNSに投稿されるようになった。アミニさんの死は、世界中のあらゆるメディアで大きく取り上げられ、ハッシュタグ「#MahsaAmini」をつけたツイートは200万件を超えた。
暴徒化したデモ参加者は連日、聖職者やイランのモスクの司祭、軍や治安部隊のメンバーを襲うようになった。その後、デモは過激的な性格を帯び、多くのテロ行為が行われた。
しかし、世界が注目するイランのデモは、一筋縄ではいかないものばかりだった。イラン当局は、この騒乱は国外から指示されたものとの見解を示した。
イランの国会議員らは、国内の暴動をめぐる状況を調査し、抗議デモにおける外国の要因を議論するために特別委員会の一連の公聴会を開いた。イラン国会・国家安全保障外交政策委員会のメンバーのジャリル・ラヒミ・ジャハナバディ氏は、次のように述べている。
「米国および英国とフランスに代表される一部の西側諸国は、暴動を内戦に変えようとし、イランの安全保障に脅威を与え、これをイランの核問題に関する包括的共同作業計画(JCPOA)の交渉でイランに圧力をかけるテコとして利用しようとした」
社会を「落ち着かせる」ための抗議行動が相次ぐ中、イラン政府は以下の様々な手段を講じた。
イラン当局は道徳警察を廃止。
イラン検察庁のモハメド・ジャファール・モンタゼリ長官は、女性のヒジャブ着用義務に関する法律を改正する可能性があると明らかにした。
英国のエスタブリッシュメントにおける政治的混乱
今秋、世界中が英国政府の再編成を見守っていた。ボリス・ジョンソン氏が7月7日、英国保守党党首及び首相を辞任すると発表。その3ヶ月後の9月6日、ジョンソン氏は辞任し、リズ・トラスが首相に就任した。
10月、トラス新首相が率いる英国政府は、新たな経済支援策をめぐる批判と、支援策実施のために国債の発行規模を拡大させるのではないかという人々の懸念の声に晒された。これにより、9月初旬に党首選で勝利したトラス氏は、首相就任からわずか44日で辞任を余儀なくされた。
トラス氏の後を継いだのは、1812年に同じく42歳で首相に就任したリバプール伯爵以降、最年少の首相となったリシ・スナク氏。スナク氏は英国史上初のインド出身の首相でもある。
一方、テレビ局「GBニュース」が行ったPeoplePollingの世論調査によると、英国人は2022年の首相としてボリス・ジョンソン氏が他の候補者よりも最も有能であると考えている。世論調査では、32%の英国人がジョンソン氏を、29%がリシ・スナク氏を、そしてわずか3%がリズ・トラス氏を選んでいたという。