【人物】ロシア好きの格闘家の石井慧さん プーチン大統領への敬意、モスクワでの訓練、政治への物怖じ無用の視点

1月5日、 北京五輪(2008年)柔道の金メダリストで、現在、クロアチア国籍(2019年に取得)のプロ格闘家でプロボクサーとして活躍する石井慧さん(36)は、大阪でのボクシングの試合前の計量の際に「ロシアの豪傑」(«Русский витязь» )とロシア語で書かれたTシャツとロシアの紋章の入ったトランクス姿で現れた。この物怖じ無用の行動はSNS上でロシア人、日本人の両サイドの大きな注目を浴びた。スプートニクは格闘家石井さんに取材し、なぜそこまでロシアへの思いが深いのか、現在の政治状況についてどういう独自の見解を持っているのかを尋ねた。
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ロシアとの馴れ初め

柔道家でもある石井さんは大会出場のために何度もロシアを訪れている。石井さんのお話では、ロシア行き が頻繁になったのは2020年からだという。
石井さん:「まず、格闘技をやっているので、その練習でロシアへ行くようになりました。その前から、僕は柔道をやっていたので、プーチン大統領も柔道が大好きということから親近感がわいたのです。それからロシアの歌手、ニコライ・エメリンさんと友達になって、あの人のコンサートを見るためにロシアへ行って、そこから頻繁に行くようになりました」
石井慧さん
ニコライ・エメリンの歌の世界にすっかり惚れ込んでしまった石井さんは、2017年から自分の試合の入場曲にエメリンの歌う『ルーシ』(編集:古代ロシアの意味)を使い続けている。
石井さん:「最初は歌が好きで、ずっと聞いていて、結局、インスタグラムでエメリンさんとお知り合いになりました。そこからどんどん仲良くなって、インスタグラムのお陰で友達になりました。それで彼から(ロシア人プロボクサー)アレクサンデル・ポベトキンさんを紹介してもらったのです。それで今も3人で仲良くしています」
スプートニク:  ロシアから受けた第一印象をお話ください。
石井さん:「ロシアの文化がすごく好きになりました。ロシア人は笑わないようなイメージがありますけれども、一回仲良くなると何でもやってくれる、助けてくれる、そういうイメージを受けました。すごくビッグハートです」
スプートニク: ロシアの文化の中でご自身が一番気に入っているところは何でしょう?
石井さん:「実は昔の文化が好きです。今はロシア正教ですけれども、その前に存在していた古いスラヴ民族の文化が好きです。それは自然に近いことだと思います。それから自然的なお茶を飲むこと、またはみんなバーニャに行くという伝統が好きです。あと、ロシア人とベラルーシ人はナショナリズム、国に対しての愛を持っていると思います。それは最近の日本人には欠けてきていると思うので、そういう強さみたいなところに惹かれます」

モスクワでのトレーニング、ロシア人格闘家、観光について

石井さんが2か月という初の長期トレーニングのためにモスクワを訪れたのは2022年1月のことだった。
石井さん:「ロシアのボクシングを学びたいということで、友達のポベトキン選手のお陰で(モスクワにある)Bupasジムに紹介してもらって、そこからそこでトレーニングするようになりました」
スプートニク: 石井さんは昨2022年夏も、ウクライナ紛争で制裁下にあるにもかかわらず、トレーニングのためにロシアへいらっしゃいました。モスクワ入りはそう簡単ではなかったのではないかと思いますが。
石井さん:「まず、観光ビザでは行けなくなって残念でした。そこでビジネスビザをとったんですが、もうクロアチア国籍になっていたので、クロアチアのパスポートでビザが取得できる先がハンガリーのロシア大使館だけだったので、そこに渡して、ビザを取りました。結構、手間だったし、とても時間がかかりました」
スプートニク: ロシアの格闘家の特徴は?
石井さん:「スラヴの人と言えば、力も強いし、精神的にも強いと思います。あと、トレーニングがすごくシステム化されて、しっかり管理されているという印象です」
スプートニク: 中でも一番感銘を与えてくれるロシア人格闘家は誰ですか?
石井さん:「やっぱり、アレクサンデル・ポベトキンさん(43)です。なぜかと言いますと、僕たちは考え方が似ているからです。僕たちは同じ入場曲を使っています。あと彼はすごく強いナショナリズムを持っていますし、ファイトスタイルも好きです。ポベトキンさんはボクシングヘビー級のチャンピオンであります。今のボクシングのヘビー級ってみんなの身長は2メーターぐらいで、めちゃくちゃ高いんです。しかし、ポベトキン選手は188ぐらい。そんなに身長は高くないのにチャンピオンになった。だからテクニックは他のヘビー級よりもずば抜けて高いと思います」
石井さんが着ているロシアの紋章入りのTシャツは、昨年、ポベトキンさんからプレゼントされたものだ。
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石井慧さんが着用するTシャツにはロシア語で「ロシアの豪傑」の文字

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石井慧さんが着用するTシャツにはロシア語で「ロシアの豪傑」の文字

このTシャツにプリントされた「ロシアの豪傑」(Русский витязь)という表現は、実はポベトキンさんのニックネームだ。
スプートニク: ロシアで他にどこを訪れたことがありますか?
石井さん:「ポベトキンさんはチェーホフという都市の出身でありますので、そこに行ったことがあります。あとはサンクトペテルブルク、エカテリンブルク。エカテリンブルクは試合だけで、モスクワとサンクトペテルブルクは試合と少し観光をして、赤い広場のような有名なところを見ました。実は、制裁のせいで銀行やクレジットカードが使えなくて、すごく大変で不便でしたので、自由な観光はあまりできなかったです」
スプートニク: ロシア料理はお口に合いますか?
石井さん:「実は、前回モスクワに行った時は、いつもウズベキスタン料理を食べていました(笑)。近くにあったので。ロシア料理でしたらなんでも好きで、ピクルスとか、塩漬けとか、お肉もとても好きです。実は、ベラルーシにも沢山友達がいまして、ベラルーシの料理もとても好きになりました」
スプートニク: ロシア語は勉強されておられますか?
石井さん:「はい、勉強しています。少し話せます。興味として勉強していますけれど、あと、モスクワに行った時、英語がしゃべれない人がまだ多くて、またロシア語をしゃべった方がもっと深い関係、コミュニケーションがとれるかなと思って、勉強しています」
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政治見解 ロシア支持とSNSでのヘイト

石井さんのツイッターを読むと、政治についての辛辣な意見が目立つ。しかも石井さんの見解は日本のマスコミ報道とはあまりにもかけ離れている。石井さんの考えが日本社会の大方の見方とこれほど異なるのはなぜか? スプートニクはこの点について率直に尋ねた。
石井さん:「みんなが馬鹿だなと思ったのは、コロナになった時です。みんなでマスクをつけて、どこにも出られなくなって、あんなに怖がっていたのに、結局、今は飲食店に行くのもあまり制限がなくなって、あのコロナ騒ぎは一体何だったんだよという感じになったじゃないですか。
みんなはテレビのニュースを信じすぎていて、考えることはやらなくなっている。ちょっと話題を変えて、ウクライナ情勢になった瞬間、みんなはまたテレビのことを信じ始めてしまった。そのコロナの時に学んだことを何で今、生かせないのだろう、何でまたすぐテレビ報道を信じるのだろうと思いました。
それから自分の中で納得がいかないこともありました、例えば、今、ウクライナのことがあってから、ロシアの曲を試合前に流しちゃいけないと、特にヨーロッパでよく言われます。ロシア語の曲というだけでなぜダメなのか納得がいかないです。そういうことから徐々に政治などに興味を持つようになってきたという感じです。僕は自分の意見を言いたいだけです」
スプートニク: 今のロシアとウクライナの間の紛争について、ご自身のお考えを語ってください。
石井さん:「難しいところであると思うのですけれど、とりあえず、2014年の時からロシアとウクライナの紛争があったわけじゃないですか。欧州安全保障協力機構はウクライナでロシア人が虐殺されていたという事実を公式には認めていますが、にもかかわらず、その公式的な事実は今、全然報道されていません。ウクライナでもロシアに戻りたいという人が多いじゃないですか。ですので、真実はテレビの放送とは違う部分があるのかなと思います」
実は石井さんはプーチン大統領の熱烈なファンだ。
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石井さん:「(なぜ好きかと言いますと)一つはプーチン氏は柔道が大好きですが、一方で長年、政治家として活動されてきた。本当にトップであると思います。ウクライナのゼレンスキーなんかはコメディアンじゃないですか。全然違うレベルじゃないですか。
あと、ちょっとショックビデオがあって、ぜひ見てもらいたいです 。
この動画を見ますと、原爆の映像が流されている時、みんな拍手していますけれど、プーチン大統領だけはちゃんと日本に対して胸で十字を切ってくれました。僕はこれをすごく尊敬しています」
スプートニク: 今、日露関係は非常に停滞していますし、これに追い打ちをかけるように、二国関係の発展に多大な貢献をした安倍元首相が悲劇的な死を遂げました。安倍氏の貢献はどのように評価されますか?
石井さん:「安倍元総理大臣は日露関係にすごく貢献した人だと思います。彼が亡くなられた時に僕はモスクワへいたので、気づくことができたのですが、ロシア人って安倍元首相のことが好きなのですよ。みんな日本大使館のところに行ってお花を供えて、もしかしたら日本人よりももっと真剣に受け止めてくれているのではないか、という感じがありました。安倍元首相が日露関係でやってきたことの大きさというのがそういうところでわかりますよね」
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スプートニク: 恐れずに政治姿勢を表すことがキャリアに悪影響を及ぼすのではないかという懸念はありませんか?
石井さん:「それはみんな言います。『ロシア擁護したらまずいよ』、『テレビ出られなくなるよ』とはよく言われますけれども、それで自分の意見を殺して、人に何を思われているかを気にしている中で生きようとは思わないです。だから、僕のやり方はあんまり賢くはないと思うのですけれども、(ベラルーシの)ルカシェンコ大統領が『跪いて生きるくらいなら、立って死んだ方がましだ』と言ったことと同じような感じで、そこは僕は曲げないのです。それで仕事がなくなったらしょうがないです」
スプートニク: SNS上でたくさんのヘイトを浴びておられるのに、それでもなぜ、ご自分の意見を他の人とシェアしようとされるのでしょうか?
石井さん:「僕自身の意見を言いたいということと、ヘイトがいるから、他の意見が気になるから、僕のやりたいことをやらないというのが僕は嫌いなのです。僕が何のTシャツを着ているか僕の勝手じゃないですか。だって、日本なんて特に民主主義の国のはずでしょう? 僕がどこの何を考えて、どの宗教で、どのTシャツを着ようと僕の勝手であると思います」
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スプートニク: 今年2023年はロシア行きのご予定はありますか?
石井さん:「今のところ予定はないですけれど、行く機会があったら行きたいです。友達もいっぱいいるので、機会がありましたらまたぜひ行きたいです」
スプートニク: 締めくくりとして、もし、日本の人に訴えかける機会があるとしたら、どんなメッセージを伝えたいですか?
石井さん:「テレビのことだけ信じて鵜呑みにするのではなく、ちゃんと自分の目で見たことで判断してくださいと言いたいです」
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