【ルポ】年寄りには安楽死? 世界を震撼させた映画『PLAN 75』の早川監督にスプートニクが独占取材

私たちはみな、本当に社会の役に立たなければ生きていてはいけないのだろうか? 日本の映画監督、早川千絵さんは自作映画の中でこの問いを掲げている。セルビアのクステンドルフ国際映画・音楽祭に出席した早川さんはスプートニクからの取材に対し、最新作の『PLAN 75』の撮影の動機について、高齢者や弱者、病人に対する不寛容さについての問いに答えた。また日本で、高齢者に対する考え方がどの変化し、どのような問題に直面しているのか、なぜ安楽死という提案に賛成する人がいるのかについても語ってくださった。
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映画の舞台は近未来の日本。政府の掲げる計画「PLAN 75」は、急速な高齢化社会の問題を解決するために、高齢者に自発的な安楽死を奨励している。生活手段がほぼ皆無の状態の老女、「PLAN 75」を遂行するプラグマティックな管理者、若いフィリピン人労働者が生と死の間で選択を迫られる。
早川千絵さんはクステンドロフ国際映画祭にはゲストとして招かれた。スプートニクの取材に早川さんは『PLAN 75』の構想の元となったのは2016年に起きたある事件で、それが自分を心底震撼させたと語った。それは、2016年7月26日、東京近郊の相模原市の知的障碍者施設で植松聖が起こした殺傷事件で、植松は入所者たちのことを役に立たない、社会の負担だと叫びながら、次々と19人を殺して行った。
植松は同年初めに日本の衆議院議長宅に「障害者安楽死法」を要求する手紙を持参し、心身に障害を持つ470人を「抹殺」することができると主張していた。植松は障碍者の抹殺を考える理由として、第三次世界大戦を未然に防ぐことにつながる可能性を指摘している。2020年3月16日、植松は死刑を宣告されている。
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スプートニク: 安楽死に対する考え方について、実際に高齢者の方のお話を聞いたことがありますか? 高齢者自身は賛成しています?
早川さん:映画では、政府が高齢者に安楽死を提示するのは1つの選択肢としてであって、義務化ではなく、こうすることで高齢者が安楽死を決断をしやすいように。この場面は映画の中では最悪のシーンの一つなのですが、公開されると多くの人からこうしたシステムが欲しいという声が挙げられました。日本では老後の生活がとても怖いので、家族や社会の負担になりたく、だから、むしろ安楽死という選択肢を持ちたいと言うのです。本当に悲しいことです。
スプートニク: 日本は長寿国として知られていますが、お年寄りに対しる態度はどうでしょうか?
早川さん: 私が子どもの頃は、お年寄りは尊敬される存在で、幸せな老後でなければならないと思われていました。ところが今は高齢者は社会保障が十分でなく、年金基金も少ない。それでみんな、老いはネガティブな現象で、問題が多いと思うようになってしまいました。年寄りは、高齢であることに罪悪感さえ感じています。家族は年長者のために多くのお金を払い、年長者を住まわせる家にもお金を払い、この状況に対する怒りを政府ではなく、高齢の親に向けてしまう。せいにするのです。私はこれは問題だと思います。
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スプートニク:映画のストーリーと同じことが日本で将来、現実に起きると思いますか?
早川さん:10年後、20年後に『PLAN 75』が現実のものとなっても私は驚きません。4年前、この短編を撮影した時はこんなことありえない、非現実的と言われたものでしたが、今、コロナウイルスの蔓延を経験した後では、映画の世界は現実のものとなりうると考える人が多くなりました。社会は変化していますし、日本社会の意識は『PLAN 75』を現実のものとする方向に動いていると思います。
スプートニク: 日本では安楽死は合法ですか?
早川さん:いいえ。でも合法化を願う人はいます。映画は安楽死がよいか、悪いかは問うていません。それを映画の中で語ることを撮影の目的にはすえませんでした。私がしたかったのは、私たちの社会が弱者に対してこれほど非寛容であってはならないはずだという問題を提起することだったからです。
スプートニク:この問題は世界的な物ですか?それとも日本にだけ当てはまるものでしょうか?
早川さん:『PLAN 75』は今、多くの国で公開中ですが、様々な国で高齢者に対して同様に寛容さに欠ける反応を私は眼にしています。いろんな国でどうしてこの映画がこれだけ受け入れられたのか、ここに理由があるのです。
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スプートニク:若さや美しさが優先される世の中になったことが問題なのでしょうか?
早川さん:一番重要視されているのは若さや美しさではなく、生産性なのだと思うんです。実際にお金持ちであれば、年齢はかまわないんですよ。社会の役に立つのであれば、何歳であるかは問題にならない。この問題は日本に限らず、より広い範囲のことなのです。だからこそ、私は問題を投げかけているんです。本当に生きていくためには、皆が生産的でないといけないのでしょうか?
スプートニク: 日本の人はこの映画にどんな反応を示しましたか?
早川さん:たくさんの人がこれはホラー映画よりも恐ろしいといいます。それはあまりに現実的だからです。
スプートニク: 今後のご予定について教えてください。
早川さん: 次回作の準備に着手しています。:『PLAN 75』「プラン75」は私の初めての長編映画です。子供の頃から映画監督になりたかった。その夢がやっと叶ったので、これからも作り続けていきたいと思っています。
スプートニク: 次回作はどんなテーマでしょうか?
早川さん:次は家族の話です。『PLAN 75』は社会をテーマにしていました。ですからこのコンセプトから離れて、少し個人的なストーリーに目を移したいと思っています。
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