しかしながら、岸田政権は自らが据えた課題の実現において、予期できないはずはない部分で、予期せぬ困難に直面している。
というのも、第二次世界大戦の終戦後、東芝、三菱電機、ダイキン工業などの大企業が伝統的に自衛隊の発展に投資をしてきたが、現在、こうした企業が国の防衛発展に貢献したいという意思をそれほど示さなくなっているのである。
防衛産業の中核を担っている三菱重工でさえも、昨年の280億ドル規模の収益のわずか10%を占めるに止まった。
なぜ日本の企業は反戦に傾いているのか、またそうした企業がなぜ、岸田首相が自身の任期中に一貫して推し進めようとしている防衛戦略を事実上「ボイコット」しているのかについて、「スプートニク」が専門家に取材した。
日本の企業に対しては、自社の防衛プロジェクトへの参加について、国の防衛能力を高めるだけでなく、長年にわたって続く不景気に悩む日本の経済を「活性化」するものだとの説得が行われている。
しかし、企業界からの反応を見ると、どうやら政府の理屈は説得力がないようである。
防衛への投資 出費は莫大だが、利益があるかは疑問
ロシア科学アカデミー、世界経済国際問題研究所日本経済政治部門の部長で、ロシア国際問題評議会の専門家であるヴィタリー・シヴィトコ氏は、まず、日本の平和憲法は戦後の数十年の間に、事実上、ほぼすべての日本人のDNAに組み込まれていると指摘し、また日本の企業にとっては「平和的な産業」の方が、「戦争への投資」よりもはるかに大きな利益をもたらすと述べている。
「日本は軍需品の輸出が禁じられているため、防衛・軍事品の注文はかなり少ないのです。従って、日本の企業は大きな収益をもたらさないものに資金を投入するつもりはありません。ですから、岸田首相が企業を説得できる可能性は低いでしょう。というのも、そのためには、日本の企業に対し、彼らの製品を売るための大規模な市場を作ることを約束する必要があるからです。つまり、長期的な注文を確実に保証しなければならないのです。日本企業の中には、部分的に、軍民両用品の製造に参加しているところもあります。たとえば、巡視船です。これは割合としてはかなり小さいものであっても、防衛目的の発注としては、企業としては納得できるもののようです。
というのも、日本の大企業が参加して、防衛品の生産量を増加するという状況は大きくは変わっていないからです。企業に対して圧力をかけることで、防衛設備への投資がいくらか継続される可能性はあります。つまり、防衛品のある程度の増産は行われるでしょう。しかし、日本の首相が短期間で達成しようとしているような規模にならないことは明白です」
というのも、日本の大企業が参加して、防衛品の生産量を増加するという状況は大きくは変わっていないからです。企業に対して圧力をかけることで、防衛設備への投資がいくらか継続される可能性はあります。つまり、防衛品のある程度の増産は行われるでしょう。しかし、日本の首相が短期間で達成しようとしているような規模にならないことは明白です」
しかし、いずれにせよ、岸田政権は日本企業に対し、国の必要に応じた、リスクのない素早い生産増加を行わせようとする試みを止めることはないだろう。
平和ではなく、戦争が長引くことを想定しているのか?
しかし、そうなった場合、日本企業は防衛・軍事品の発注を優先的なものにし、それを企業活動の主な原動力にしなければならなくなる。
これに関して、シヴィトコ氏は、欧州諸国の経験から、日本の企業にとってリスクがあることは証明されていると述べ、なぜなら軍事紛争を含め、あらゆる対立は永久に続くことはないからだと指摘する。
「1990年代、冷戦が終結した後、ヨーロッパの企業に対する軍需品の発注は急激に減少しました。軍事品の工場や設備は余剰状態となり、それを維持するのは有益ではなくなりました。それはあまりにも費用がかさむということで、削減したわけですが、ヨーロッパの企業は今また軍需品の製造を急速に増加するよう求められています。このように、軍事防衛品の生産において、長期的な計画なしに明確なリスクを回避することは事実上、不可能です」
おそらく、日本の大企業はこうした要素を考慮した上で、収益率が低く、金融リスクのある防衛品生産のための工場建設については懸念を示し続けている。日本が防衛力増加を終えた後、それらの工場は無益なものになる可能性があるからだ。
さらに、日本の企業は、明確な態度を示すことができない理由として、武器を販売することで、企業の社会的なイメージに害を与える可能性があるからだと説明している。一方、複数のメディアが、有名な日本企業の株主たちと同様、企業は収益の高い民生品に集中すると期待されると報じているが、もしも日本の軍事化がこれまでと同じテンポで進んでいくとすれば、それは事実上、日本が平和ではなく、戦争に備えていることを意味している。
軍需市場において収益のある「日当たりの良い場所」はすでに奪われている
つまり、軍事紛争への日本の間接的あるいは直接的関与は、そこから抜け出すための予測不可能な結果をもたらすのである。
ロシア科学アカデミー中国・現代アジア諸国研究所、日本研究センターのワレリー・キスタノフ所長は、日本の平和な経済は少しずつ軍事的な方向に進んでいき、日本は、その市場において、強いプレーヤーとの販売競争に直面することになるだろうと指摘する。
「日本政府は2027年までに、防衛費をNATO諸国と同じ、GDPの最大2%にまで増加させる計画です。つまり、その防衛費は、米国、中国に次いで、世界でも最大規模のものとなります。なぜなら日本経済は世界3位の規模を誇っているからです。しかも、防衛・軍事品の大規模生産が、日本経済の原動力になる可能性があると考えられています。しかし、そのために大企業は、生産による損害を出さないため、海外での大きな販売市場が必要になります。一方、武器の輸出市場はすでにかなり前から、他の国によって独占、あるいは分割されています。主に市場を占めているのは、主要なグローバルなプレーヤーである米国や英国です。さらに、フランス、イスラエル、ロシア、中国は、グローバル・サウスの国々に積極的に武器を提供しています。つまり、非常に激しい競争が行われている状況で、そこに日本企業が参入し、それなりの地位を築くのは簡単なことではありません」
そのために日本は、信頼のある、特別かつ最新の防衛・軍事品を供給する国としての国際的な権威を獲得するための時間が必要となる。
しかし、防衛・軍事品の販売市場が突然、現れたとしても、もう一つ、絶対に解決できない問題がある。日本は武器の輸出を禁じているのである。日本の今の状況を打開するためには、憲法を変える必要があるのである。しかし、これも一定の困難が伴うことになる。なぜなら、国民は何十年もの間、平和主義の原則の下で教育されてきたからである。
エネルギー問題は、平和の時代にあっても日本の「弱点」
しかも、日本経済には今、防衛装備の再配備よりも深刻な問題がある。たとえば、エネルギー資源の依存から脱却できずにいることである。
日本政府はこれについて、これまで一度も隠してきたことはない。エネルギー資源の大部分を中東から輸入し、ロシアへのエネルギー依存度を10%以上に上げることはできない。
一方、ウクライナ紛争によって、日本政府はロシアとのほぼすべての交渉を停止した。しかし、日本の企業には、ロシアとの共同プロジェクトを拒否するような贅沢は許されないのである。
この問題におけるヨーロッパの状況は非常にわかりやすいものである。安価なロシアのエネルギー資源を拒否したことで、ヨーロッパの多くの国々が存続できなくなり、競争力を失っている。ヨーロッパ諸国は、損害を被りつつも、それに比較すれば高価な米国のガスを購入している。
ロシア科学アカデミー中国・現代アジア諸国研究所、日本研究センターの主任研究員、コンスタンチン・コルネーエフ氏は、日本のエネルギー産業はまったくの民生分野であると述べている。
「日本のエネルギー産業においては、特別な機能というものがまったく想定されていません。たとえば、軍事紛争が起こった場合に軍需品の工場などに使うなどといったような機能です。つまり、日本のエネルギー産業はそのような脅威には対抗できないのです。それは、独自のエネルギー資源が不足しているためだけではなく、原子力発電所の地理的な位置もその原因の一つです。日本の原発はほぼすべて沿岸部に建設されています。福島の事故はそのような場所に位置していることの危険性を世界中に見せつけました。日本が参加する軍事紛争が起こった場合、それらの原発は崩壊する可能性があります。またそれにより、日本全土規模の大きな事故が発生する危険性もあります。
日本の大企業が防衛・軍事品の生産を拡大した場合、エネルギー産業における問題はそれがどのようなものであっても、きわめて深刻なものになります。最大の広さをもつ北海道では、戦時でなくてもエネルギー的にかなり脆弱であることを考慮すればなおさらです」
日本の大企業が防衛・軍事品の生産を拡大した場合、エネルギー産業における問題はそれがどのようなものであっても、きわめて深刻なものになります。最大の広さをもつ北海道では、戦時でなくてもエネルギー的にかなり脆弱であることを考慮すればなおさらです」
一方、防衛・軍事品の発注ではなく、エネルギーがこの国の経済を生きながらえさせている活力である。
そして日本は、その経済力と技術力を持ってしても、エネルギーという意味においてはその例外にはなり得ないのである。
日本政府指導部が、防衛・軍事品の輸出について、「愛国的義務」で正当化するのが困難になりつつあるのは、こうした事実によって説明できるのかもしれない。