ロシアの政治学者ゲヴォルグ・ミルザヤン氏によると、「乱用」という言葉を使っているのは日本の首相だけではないという。
「米国も自分たちのレトリックの中でこの言葉をよく使っている。一方、乱用という考えがあったとしても、拒否権の廃止は不可能だ。理由は単純だ。それは、国連安保理常任理事国(ロシア、米国、中国、英国、フランス)の中でこれに同意する国は1国もないからだ。岸田首相の大の仲良しである米国でさえもだ。なぜなら、国連安保理と拒否権は、まさにすべての大国が合意して世界の重要な決定が下されるためにつくられたからだ。また拒否権をもつどこかの国を国連安保理常任理事国から追放する手続きも存在しない」
なお、日本はずいぶん前から国連安保理常任理事国入りを目指しているが、まだこの目標を達成していない。ミルザヤン氏は、近い将来、日本のこの願いが叶う可能性は低いという見方を示している。
「近年、国連安保理拡大案は壮大なPRプロジェクトに変わり、そこには国際社会の指導者を含む大半の国が『口頭』で参加している。常任理事国の数を増やすことによって拒否権を拡大する必要があると誰もが述べている。一方、どの国を追加するのかはまだ誰も決めていない。なぜなら、この重要な問題について、それぞれの国が独自の見解を持っているからだ。例えば、日本が立候補した場合、中国は反対票を投じる可能性が高い。しかも(中国は)拒否権をもっている。とにかく、安保理拡大をめぐるこの『世界的なゲーム』は続いている。なぜなら、例えば、インドにも国連安保理のメンバーになるチャンスが少なからずあるからだ。しかし日本と同じく、拒否権はない」
したがって、このテーマは議論されてはいるが、今のところそれを実現できる具体的な見通しはない。
「一方、それにもかかわらず、岸田首相は国連安保理の常任理事国拡大に関するテーマを引き続き推進するだろう。このような外交は『リクエスト外交』と呼ばれる。最初は要求のみを提示する。その実現に高い期待がもたれている。しかし、議論の過程で当事者は要求の削減に同意する。より現実的で妥協できるものになるまで」
ロシア科学アカデミー東洋学研究所付属東南アジア・オーストラリア・オセアニア研究センターのドミトリー・モシャコフ所長は、拒否権乱用に関する岸田氏の発言について、ロシアと中国に対するいつもの攻撃的な発言だという見方を示している。
「日本政府は、ロシアと中国が日本の国連安保理常任理事国入りを歓迎していないことをよく理解している。国連安保理が拡大した場合、インド、ブラジル、そしてアフリカの代表が先にそこに入るのは現在明らかであり、日本のチャンスは最小限だ。米国もそれらの国に投票するだろう。さもなくば、それはグローバルサウスと呼ばれる非西側世界全体に対する明らかな侮辱とみなされるからだ。したがって、国連安保理が改革される場合、日本政府もせめて何らかの支持を前もって取り付けようとするだろう。なぜなら日本は、ロシアに対する非友好国として、いずれにせよ、ロシアの拒否権に直面することになるからだ。すでにロシアの拒否権は不当とみなされている。
しかしこの権利は、そこで日本がドイツのように侵略国だった第二次世界大戦の戦勝国にとって完全な根拠をもって形成された。そのため非常任理事国は拒否権をもつことができなかった。一方、現在、その当時から世界は大きく変わったという考えが活発に広められており、規則の変更が求められている。そして、この考えを全世界に押し付ける試みが行われている。それは、前世紀の歴史はもはや重要ではないということにある。そして重要なのは、世界で今起こっていることだ。世界では主に米国が設定し、彼らの国益に基づいたある種のルールによってすべてが規制されている。しかし、これは国連安保理ではそう簡単にはいかない。なぜなら、ロシアと中国がプロセスを止める拒否権を持っているからだ」
モシャコフ氏は、したがって、米国が日本のその取り組みの助けを借りて拒否権の行使をより困難または拒否権を完全に廃止する可能性も排除できないという見方を示している。
「拒否権は『諸刃の剣』であるため、拒否権の廃止は米国にとって有益ではない。なぜなら米国自体が拒否権を頻繁に行使しており、事実上、その数は国連安保理の他のすべての常任理事国よりも多いからだ。一方、米国は国連安保理における自国の衛星国の数を日本やドイツを加えることによって増やすことに関心があるため、国連安保理改革は米国にとって有益でもある」
しかし、その拡大によって国連安保理における米国独自の権力や影響力が低下する可能性も排除できない。それは拒否権を持つ他の国々も同じだ。そして、異なる国益の衝突や意見の相違は増加するだろう。これは、国連安保理の活動能力を低下させ、合意を得るのを難しくし、重要な取り組みのブロックにつながる。