日本人のフォーラム参加者はみんな遠慮して、「ロシアに対する制裁をやめよう」とは誰も言わなかった。ところがドイツは違う。あるドイツ人パネリストはフォーラムで「こんなにもドイツの企業が苦しんでいる。対ロ制裁には何の意味もない」と発言した。制裁をされている方ではなく、している方が苦しんでいる。フォーラム参加者には、ロシアは経済制裁をされても全然困っていないことがよくわかっている。プーチン大統領はフォーラムで「ロシアはいつも、誰に対してもオープンだ」と発言した。欧米の制裁により輸入できなくなった食品は代替を南米などから輸入しており、欧州に取って代わる輸入先はいくらでもある。ルーブルが安くなり、ドル建て商品である原油・ガスの輸出によりドルがロシアに入ってくる。それと同時に国内インフレ率が下がってきて、国産品の需要が伸びている。今まで弱かった機械分野でさえもだ。そして乳製品なども生産力が高まっている。GDPがマイナスになったとはいえ、国産品の生産が伸びている以上、ロシア経済には明るい兆しが見える。ロシアの経済力を弱め、国民の怒りの矛先をプーチン大統領に向けようとした欧米の狙いは完全に外れた。むしろ自国の立場を貫くプーチン大統領に支持が集まっている。
よく耳にするこのようなジョークがある。沈没しかけた船から乗客を海に飛び込ませるとき、どのように言えば彼らは飛び込むだろうか?アメリカ人には「今、飛び込めばあなたはヒーローになれますよ」、ドイツ人には「飛び込むのが規則です」。そして日本人には「皆さん、飛び込んでますよ」と言えば良い。日本人は、ドイツ人のように先立って発言しないだけだ。「心の中で考えていることは皆、同じです。日本の対ロ制裁には何の効果もないとわかっています。むしろ自分たちのビジネスにとってマイナス。でも自分が一番にそれを発言するのは憚られる。誰かが言い出すのを待っているんじゃないかな」と関係者は明かす。
円卓会議で「日本からロシアへの投資は相対的に非常に少ない。ロシアとのビジネスはこれからだ」としたモスクワ・ジャパンクラブ目黒理事長の発言が、現在の日ロビジネスの全体像をよく表している。今年9月からはウラジオストクでも毎年、東洋国際経済フォーラムが開催される予定だ。本腰を入れて極東への投資を呼び込みたいロシア。極東にビジネスチャンスを見る、「遠慮しない」日本企業の参加を期待したい。
徳山あすか