米政権内の中国抑止政策推進派にとっては、中国がアジアの領土問題で立場を強化することは、すなわち脅威である。たとえば地域における米国の影響力にとっての脅威である。今回、米中首脳会談の直前になって、中国が南シナ海での活動を活発化させたことは、米国に対する明確なシグナルである。つまり、中国は、たとえ米国がどんなに批判しようとも、南シナ海における活動を継続し、自らの国益を追求し続ける、というシグナルを発信したのだ。
米国にとって南シナ海情勢が緊張していることは、むしろ利益である。アジアの安全を中国から守るアメリカ、という名目が立つからである。ロシア科学アカデミー東洋研究所のドミートリイ・モシャコフ研究員はそう語る。
「米国は南シナ海の対立を利用して、フィリピン、ベトナム、ミャンマーとの関係を改善し、この諸国をある意味で保護しようとしている。彼らは中国の伸張をはばむ、一種の防疫線を構築しようとしている」
中国の戦術とは、第一に、紛争の国際化を避け、第二に、米国をはじめとする、また日本をもその一部とする地域外諸国の介入なしに問題を解決していく、というものである。
軍事アナリストによれば、中国の軍事インフラ新規建設を許さない旨、米国がどんなに口を酸っぱくしても、大した効果はない。中国が人工島を建設したとき、地域諸国は懸念を募らせたが、それでも中国に対抗するために団結することはなかった。
米中首脳会談を前に中国は、米国の圧力には屈しないという強硬さを示した。中国は東南アジアから米国を追い出すために、あらゆる手段を複合的に使うことを辞さない。経済的な手段も含めてである。領土問題とは無関係に、中国はいぜん、貿易や投資の分野で魅力的な協力相手である。この意味で、米国にとって、中国は掛け替えがないのである。米軍が同盟諸国と合同でパトロールを行なったとしても、地域の新たな勢力バランスを根本変革することはできない。ASEAN諸国の一部が既に米中間でバランスする政策から中国との戦略的妥協という政策へとシフトしていることは重要だ。首脳会談のメインテーマとなるべきキーポイントは、いかにして今の南シナ海をめぐる米中対立を現実の戦争に発展させないようにするか、ということである。ここで優先されるべきは、米中間の信頼醸成措置と、海・空における偶発的衝突の予防ということである。